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映画『きみが死んだあとで』で、代島治彦監督が問うたこと

「かっこよかった」学生運動のお兄さん、お姉さんはその後……

北野隆一 朝日新聞編集委員

 半世紀前、学生運動を担った先輩世代にあこがれた小学生は、大人になって映画の世界に進み、長い間抱えてきた疑問に決着をつけようと映画をつくった。テーマは「かっこよかったお兄さん、お姉さんたちは、その後どこに行ったのか」。

「羽田事件」が与えた衝撃

 1960年代は、世界各国で若者が体制に異議を唱えて街頭でデモに繰り出し、大学でバリケードを築いて立てこもった時代だった。日本でも1960年の安保闘争には学生らが国会前に詰めかけ、60年代末には全共闘運動やベトナム戦争反対運動などに参加した。

 「あの時代」を振り返るドキュメンタリー映画をつくり続けているのが、映画監督の代島治彦さん(62)だ。2014年には成田空港建設に反対した「三里塚闘争」にかかわる農民らを追った「三里塚に生きる」を、また2017年には反対運動を支援した活動家らを追った続編「三里塚のイカロス」をつくった。今春公開予定の監督作品「きみが死んだあとで」では、舞台を成田空港から羽田空港に移している。

「羽田事件」の現場となった弁天橋の上に立つ代島治彦さん=2020年12月18日、東京都大田区「羽田事件」の現場となった弁天橋の上に立つ代島治彦さん=2020年12月18日、東京都大田区、鬼室黎撮影

 1967年10月8日。米国によるベトナム戦争に反対する学生たちは、日本によるベトナム戦争への加担にも抗議し、佐藤栄作首相の南ベトナム訪問を阻止するため、首相の乗った飛行機が出発する羽田空港へ突入しようとした。空港入り口にかかる弁天橋で学生らと機動隊が衝突し、京都大1年生だった山崎博昭さん(当時18)が死亡した。「羽田事件」「第1次羽田闘争」などと呼ばれる。

 山崎さんの死は学生たちに衝撃を与えた。長崎県佐世保などでの米軍基地に向けての抗議行動や、69年の「沖縄デー」や「国際反戦デー」での大規模な街頭デモ、さらに68~69年には全共闘運動などの大学闘争が各地に広がるきっかけとなった。

半世紀後の「プロジェクト」

 それから半世紀。山崎さんの兄建夫さんが呼びかけ、山崎さんの出身校である大阪府立大手前高校の同窓生らが「10・8山崎博昭プロジェクト」を発足させた。

 高校の先輩にあたる元東大全共闘代表の山本義隆さんや、高校の同級生で、事件をきっかけに詩人になった佐々木幹郎さん、小説家になった三田誠広さんらが参加。山崎さんの死によって当時受けた衝撃と、その後の人生をそれぞれどう生きてきたかを語り継ぐ集会を開き、文集を出版。山崎さんをしのぶ墓碑を弁天橋近くの寺に立てた。さらに、山崎さんが命をかけたベトナム反戦運動の意義を現地でも伝えようと、ベトナムのホーチミンにある戦争証跡博物館で回顧展を開いた。

映画のスチール写真から。山崎博昭さんと日本のベトナム反戦運動についての回顧展会場であいさつする山本義隆・元東大全共闘代表=2017年8月、ベトナム・ホーチミンの戦争証跡博物館 ©きみが死んだあとで製作委員会映画から。山崎博昭さんと日本のベトナム反戦運動についての回顧展会場であいさつする山本義隆・元東大全共闘代表=2017年8月、ベトナム・ホーチミンの戦争証跡博物館 ©きみが死んだあとで製作委員会

 代島さんは「プロジェクト」の記録係を頼まれ、ベトナムにも同行してビデオカメラを回した。羽田事件から50年となる2017年に一連のイベントは終わったが、代島さんはさらに取材を続けた。山崎さんの兄や同窓生らに改めてインタビューを申し込み、2019年に5カ月ほどかけて14人から話を聞いた。延べ90時間に及んだインタビュー映像を読み込んで編集し、約3時間20分の長編映画「きみが死んだあとで」を仕上げた。

「長年の疑問に決着をつけよう」

 代島治彦さんは1958年生まれ。羽田事件当時は小学生だった。ベトナム反戦を訴え、革命を叫んで闘う「団塊の世代」のお兄さんやお姉さんが「かっこよく見えた」。ヘルメットをかぶり、角材を握り、命をかけて訴える姿にあこがれた。68~69年の東大闘争や日大闘争を伝える新聞を「わくわくしながら読んだ」という。

 しかし代島さんが中学に入るころから、お兄さんたちは「かっこよくなくなった」。活動家同士で暴力を振るう内ゲバが激化し、72年には連合赤軍あさま山荘事件が起き、組織内での活動家の殺し合いが発覚。ハイジャック事件や連続企業爆破事件なども起き、学生運動は急速に社会の支持を失っていった。

 代島さんは「先輩たちがつくった道を自分も歩みたいと思っていたのに、道はできず、負の遺産ばかりが残された」と振り返る。代島さんの年代は、運動が熱を失った後の「しらけ世代」とか「無気力・無関心・無責任」の「三無主義」

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