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アイヌ差別と「かつてダジャレであったもの」

「言葉狩り」批判は差別への意図的な加担でしかない

赤木智弘 フリーライター

 3月12日金曜日、日本テレビ朝の情報番組「スッキリ」で、アイヌ民族に対する侮辱的な表現が行われ、大きな問題となった。

 番組で、アイヌ民族を描くドキュメンタリー作品を紹介した後に、VTRの中でお笑い芸人が以下のようなダジャレを言ったのである。

 「この作品とかけまして、どうぶつを見つけた時ととく その心は あ、犬(アイヌ)!」

 番組終盤のコーナーであったため、スッキリはそのまま終了したが、放送直後からSNSなどで差別発言があったと騒ぎになった。日テレは夕方のニュース内で謝罪をしたが、スッキリは月金の帯番組であるために土日は番組が無く、番組としての謝罪は翌週の月曜日となった。

 その後、ダジャレを言ったお笑い芸人は14日の日曜日に、自身のTwitterで「勉強不足を痛感しました」と謝罪。そして15日月曜日、番組冒頭で全面的に謝罪。司会の加藤浩次氏は自身が北海道出身であると前置きをした上で、オンエアの際に彼自身が即座に対応できなかったことを謝罪した。

知らなかった故ならば挽回は可能だ

アイヌ民族を先住民族と認める決議が行われる衆院本会議場で、傍聴席から議員に手を振る北海道ウタリ協会の人たち=2008年6月6日

 まぁ、明らかに差別的な発言である。僕自身は栃木県の出身だし、北海道には親類縁者はいないはずだ。それでもアイヌの人たちに向けた言葉として、件の発言が典型的な差別の言葉であることは知っている。

 一方で、その発言をしてしまったお笑い芸人は、それが差別の言葉であることを知らなかったのだろう。

 知らなかったことは良くないが、ちゃんと学べば知ることができる。そして今後はアイヌの人やその文化に触れる時には気を付けようと意識すればいい。知らなかったが故に起きてしまったことは、知った後の行動で挽回することができるのである。

 それより問題なのはスッキリという番組の方である。

 スッキリ自体は生放送だが、問題の発言があったコーナーは字幕などもしっかりと入ったVTRでの放送であった。VTRを作るためにそれなりに人間がたくさん集まっているはずである。

 そうした中で「この発言は問題では?」というチェックをできる人がいなかったのだろうか? もしくは上の権力が強く、下の人間が疑問を呈すことができないような体制なのだろうか? いずれにせよ、番組を制作したり放送するという中で、この言葉がアイヌ差別であるという認識を持てなかった。つまりこれらの工程において必要なチェックが抜け落ちていたということである。そのことをしっかり自覚してもらいたい。

 ただ、番組はまだ謝罪しただけマシである。

 この問題で本当に露呈した「一番酷い人たち」がいる。それはネットでこの問題を「マイノリティによる言葉狩りだ!」などと批判していた人たちである。

差別であると知った上でもなお「言葉狩り」を憂える人たち

 この言葉を発してしまったお笑い芸人は、この言葉が差別であることを知らなかった。しかしそれを知って謝罪を行った。だが、「言葉狩りだ」などと主張する人たちは、この言葉が差別であることを知ってもなお「その言葉を自由に言わせろ!」と主張しているのである。

 知らなかった時点の話ならまだしも、これがニュースになり報じられ、その言葉がアイヌの人たちに使われた差別用語だと知った後に言葉狩りといいだすのは、差別への意図的な加担でしかない。

 彼らは「犬とアイヌをかけただけのダジャレじゃないか。差別なんて大げさだ。反発する方がおかしいじゃないか」と主張する。

 例えば外国人がこっちを見て「Hey! JAP!!」と声をかけてきたときに、僕はこれを侮辱であると感じる。しかしそれを指摘したことに対して「JAPというのはJAPANの前3文字をとっただけ」と言い返されたとしたら、納得できるだろうか。

 僕は納得しない。なぜならJAPという言葉は日本人に対する蔑称として広く知られており、その意味を決して無視することはできないからである。

 本当に知らなかったとしても、

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