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【47】新耐震設計法の導入から40年、事業継続を担保する設計法に脱皮を

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

 新耐震設計法導入からまもなく40年を迎える。1968年十勝沖地震や1978年宮城県沖地震において、耐震性が高いと考えられていた鉄筋コンクリート造建物が構造的な被害を受けた。二つの地震では、短柱のせん断破壊、ピロティに代表される上下階の堅さが急変する階の層崩壊、壁配置の偏在による捩じれ被害などが目立った。

 短柱とは、柱の上下が垂壁や腰壁で拘束された柱で、変形能力がないために×印状に壊れやすい。後二者は構造的なバランスの問題である。これらの被害を抑止するため、1981年6月1日に建築基準法施行令が改正され、新耐震設計法が導入された。

 これ以前は、中程度の地震の揺れに対して無損傷であることを保障する設計(一次設計)のみだったが、これ以降、より強い揺れに対しても検討が行われるようになった。強い揺れでは空間を保持して人命を守ることを優先し、建物の損傷を許容する終局強度型の設計法(二次設計)である。

 新耐震設計法の導入によって建物の耐震性が向上し、1995年兵庫県南部地震では、1981年以前の旧耐震基準の建物と比べて建物被害が大きく減じられ、その妥当性が検証されることになった。ただし、新耐震設計法では、強い揺れを受けた後の継続使用は前提にしておらず、複数の地震は想定していないので、BCP(事業継続計画)で考える事業の継続性は担保しているわけではないことに注意が必要である。

宮城県沖地震で1階部分が押しつぶされた3階建てのビル=1978年6月13日、宮城県仙台市

最低基準の建築基準法

 建築基準法はあくまでも「最低基準」であり、震度7のような強い揺れに対してまでは人命を保障していない。しかし、このことは、社会にはあまり認識されておらず、耐震基準を満足していれば生活や事業を継続できると考えている人が多い。

 建築基準法は、第1条に、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」とある。国民の最低限の生存権を保障する(憲法25条)範囲で、財産権(憲法29条)を制約するものである。従って、よく使われる「耐震」という言葉は、最低の耐震基準を満足しているにすぎない。

 建築基準法施行令で規定される新耐震設計法では、地震時に建物に生じる水平力を定めている。建物の足元(基礎)に生じる力として建物重量の何倍の力を考えるかを、標準せん断力係数として定めており、一次設計では0.2、二次設計では1.0としている。建物の足元の力は、建物各部に生じた慣性力(各部の質量の応答加速度の積)の総和なので、建物の平均的な応答加速度として、200ガルと1000ガルを想定したことを意味する。

 地盤の揺れではなく建物の応答を規定していることに注意されたい。さらに、地域による地震危険度の低減、地盤の固さによる揺れやすさの低減、建物の揺れやすい周期による地盤の揺れの低減、構造の粘り強さによる低減が考慮される。

地震時の建物の振動現象と耐震設計

 地震時の建物の揺れは、地震の規模、震源断層の破壊の仕方、地震の発生場所と建設地との距離や地震波の伝播の仕方、地下の地盤の揺れやすさ、建物の揺れやすさによって左右される。地盤の揺れの強さや長さ、周期などの特性は、地震や地盤によって異なる。

 また、地盤の揺れが建物の揺れやすい周期と合致すると共振して建物を大きく揺さぶる。建物の揺れやすい周期は、建物の構造や階数によって異なり、構造損傷すると周期が長くなり、エネルギーが吸収されて揺れが低減する。建物各部の応答加速度と質量との積が慣性力で、この力によって建物に生じた力が構造物の弾性耐力を上回ると損傷する。

 本来は、これを計算機上で時々刻々再現して、構造物の健全性を確認することが望ましい。しかし、様々な地震に対して

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