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「さざ波」を無視して結ばれるオリンピックの絆とは

死者をせせら笑った内閣官房参与・高橋洋一氏

赤木智弘 フリーライター

 菅内閣の内閣官房参与でもある経済学者、高橋洋一氏が、5月9日にTwitterで、諸外国と日本の新型コロナ感染者率を比較したグラフを元に「日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑」(原文ママ)というツイートを行った。

 当然であるがこのツイートには批判が多く寄せられている。

「この程度の『さざ波』」「笑笑」などと書かれた高橋洋一氏のツイート
https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1391207118502383621

五輪以外のスポーツを持ち出す的外れ

 確かに、日本での新型コロナ感染者率は欧米と比べると低い。これは日本では家には靴を脱いで上がったり、親しい間柄でもパーソナルスペースを広く取ることなど、風習の違いから、欧米よりも感染率が比較的低いのではないかと言われている。

 とはいえ、同じような文化風習であるアジア諸国は全体的に感染率が低く、日本だけが特別に低いと言えるわけでもない。

 また、感染率が低いのであれば新型コロナの封じ込めも欧米諸国より容易だったはずだが、新型コロナの騒ぎが始まり1年以上経っても現状はご存じの通りで、再び新型コロナが流行。一部地域ではすでに医療崩壊とみられる状況にある。

 1年前のように「#4日間はうちで」などのハッシュタグが流通しており、新型コロナ感染の疑いがありながらも医療崩壊を防ぐためにと遠慮した方が亡くなっていた頃とは違い、今は医者や保健所が早急な入院の必要性を認める状況でも、ベッドが空いていないので物理的に入院できず、自宅療養のまま死に至るケースすら出てきているのである。

 今後7月下旬に開会式が行われるオリンピックシーズン頃には、今以上に新規感染者が爆発的に増えていてもおかしくなく、国民に対する検査態勢の充実や、ワクチンの接種も遅れている。国は6月末までには65歳以上への接種は終わらせると息巻いているが、オリンピックから逆算した机上の空論でしかなく、とても順調に進むとは思えない。

 また当然64歳以下への接種は当分期待できないから、オリンピックに動員される多くのボランティアは、定期的なPCR検査もワクチン接種もないまま大会に臨むことになる。

 さらに言えばワクチンは万全のバリアではない。ワクチンを接種している選手たちにも日本のボランティアから感染する可能性は残される。新型コロナによってベストなパフォーマンスが阻害される可能性は、決して低く見積もるべきではないだろう。

 さらに高橋氏は「さざ波」発言が批判されるとみるや「五輪中止となると、こういうスポーツも全部ダメなのかね」などと、批判の矛先をオリンピック以外のスポーツに逸らそうとした。しかしこの主張も極めてズレている。

 オリンピックはパラリンピックも合わせると世界各国から33競技339種目の選手がやってくる。選手だけでも11,000人以上が来日するのである。オリンピックの後に控えるパラリンピックを含めれば選手の数は15,000人を超える。さらにコーチやスタッフといった選手周りの関係者はもちろん、各国要人やマスメディアの人たちも来日する。

 高橋氏が矛先を逸らした先である競技別の国際大会や、日本国内のプロスポーツとは言葉通りに桁違いの人が集まるのである。「国内スポーツや1競技の国際大会はいいけれど、オリンピックはダメ」という判断は実施規模の違いによるのだから、何も矛盾していないのである。

「さざ波」と言い放つその数字の一つひとつは、誰かの大切な命だ

 だが、なにより重大なのは、高橋氏が「さざ波」と言い放つその数字の一つひとつは、誰かの大切な命であったという事実である。

 特に新型コロナは感染症であるために、死の危機に際しても直接会うことができないなどの制限がつきまとう。ちゃんとした見舞いもできないままに肉親を亡くしてしまった人も多い。

 さらに

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