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コロナ・パンデミックのただ中で、介護職員らはいのちによりそっている(下)

かけがえのない友人たちの苦境~恢復へ、社会的支援を!

白崎朝子 介護福祉士・ライター

コロナ・パンデミックのただ中で、介護職員らはいのちによりそっている(上)

大阪・西成の介護事業所の友人

手が出ぬN95マスク、「使い回すため消毒の仕方を教えて」

 昨年の夏のおわり、友人2人が勤務する大阪市西成区にある医療法人が運営する病院と施設数ヵ所でクラスターが発生した。友人の事業所では幸い感染者はでなかったが、クラスターが出た病院ですらN95マスクの支給されない病棟もあり、サージカルマスクのみで、陽性者の食事介助等をしていた。沖縄を支援した経験から、感染者が出てからN95マスクを発注しても遅いと思った。

 沖縄のときにカンパを集めてくれた病院職員の女性からN95マスクが1枚2000円もしていると聞いていた。私が沖縄に送っていたN95マスクは安いとも……。それでも低賃金の介護職員にはとても手がでない。

 私は3つのメーリングリストと友人100人程に緊急カンパの要請をした。すると、わずか3分で再び医師の友人が連絡をくれ、5時間で7人から「カンパする」というメールがあり、その日のうちにN95マスクを発注できた。ただ一箱20個では職員全体には行き渡らない。友人たちが所属する現場は、デイサービス、訪問介護事業所、そしてグループホームという高齢者のための複合施設だった。友人からは、「何回も使い回すための消毒の仕方を教えて欲しい」とメールがきたので、医師の友人に消毒の仕方を教えてもらい転送した。

過酷な労働環境でも、利用者には決して笑顔を忘れない大阪市の介護職員。過酷な労働環境でも、利用者には決して笑顔を忘れない大阪市の介護職員。

送ったマスクは看護師、利用者にも

 友人からは、「利用者とN95マスクをつけ、クラスターが発生した病院に通院しました」という報告メールがきた。利用者にもN95マスクが必要だと気づかされた。また防護服の上につける使い捨てのビニールエプロンが必要と聞いていた私は100枚送った。「注文したが売り切れで入手できなかった」と喜んでもらえた。緊急事態宣言が解除されても、正規ルートの物資は奪い合いが続いていた。私が送ったN95マスクは病院の看護師たちにも渡されていたと後から知った。

 沖縄にゴミ袋でつくった簡易防護服を送ってくれていたホームレス支援団体の「ほしのいえ」が、簡易防備服と不織布マスクを友人たちに送ってくれた。その直後、再びカンパがあったので、欲しいものを尋ねると、「N95がありがたいです。法人からは支給されていないから。N95マスクを要求してきたけど、『専門的なつけ方があるから』と拒否されてきました」とのメールをもらい、私は再びN95マスクを40枚送った。

大阪市の有料老人ホームで働くHさん、東京都内のケアマネジャーFさん

ハードルが高いPCR検査~「今ごろ初の検査」?

 「大阪市からの要請で初めて職員全員のPCR検査が実施されました。全員陰性でしたが、今ごろ初めての職員全員の検査なんてあり得ません!」と憤るのは、大阪市の有料老人ホームで働く非常勤職員Hさん。今年6月の半ばにきた彼女のメールに、私は絶句した。

 昨年の緊急事態宣言中、会社は特別手当(3000円/日)を支給したが、昨年より大変ないま、手当は一切ないという。国の慰労金も施設側がなかなか申請せず、支給されたのは昨年末だった。マスクの不足時には自費購入を求められて、職員はとても苦労していた。

 また面会制限で入居者の心身もどんどん悪化し、歩行できた入居者が車椅子利用となり、認知症が進む入居者も多い。声を出すレクリエーションができないため、入居者の喉が衰えて嚥下障害が増え、職員の介護負担が増している。

 さらに深刻なのは、職員の離職の増加だ。「コロナ禍では一年中、慰労金のような手当が欲しいです。医療関係者に比べればと思われるかもしれませんが、本当に辛いです」とHさん。彼女は昨夏から1年近く、マスクとフェイスガードをつけ完全防備で通勤している。介護職員がどんなに努力していても、PCR検査すらまともに受けられない。大阪は東京より更に厳しい状況だと感じる。

 一方、東京都は高齢者の介護事業所等にPCR検査をする制度をつくったが、小規模事業所やケアマネジャーだけの居宅介護事業所は検査の対象にならず、自治体からは日本財団が実施している検査を受けるようにとの案内がきている。

 「今まで以上に体調管理に気っていますが、ストレスで病欠をとる同僚も出ています」というのはケアマネジャーのFさん。検査すらまともに受けられないリスクのなか、利用者や介護家族を全力で支えてきた。彼女は緊急事態宣言の渦中、一人暮らしの利用者が倒れてしまい、救護のために身体介護を余儀なくされた。そんな現場の実態に対して、PCR検査は長くハードルが高く、改善要求の声が上がっていた。

関西の訪問介護事業所のヘルパー、Cさん

利益優先ではない公的組織では……

 「特別リスク手当が第一波のときに支給されたが2回目以降はない。コロナ時に限らず一時金より基本給をあげて欲しい」と言うのは関西の訪問介護事業所の非常勤ヘルパーCさん。

 コロナ禍になって以降、事務所からマスク2箱・フェイスガード・使い捨てガウン等を支給された。メガネ・ガウン等のハイリスクセットは、事務所から紹介されたコロナ対策研修で支給され入手できた。任意参加だと研修手当は対象外だが、この研修は任意にも関わらず手当がでた。

 Cさんの勤務先は利益優先ではない公的要素の強い組織で、私が知りうる事業所のなかでは一番待遇が良い。彼女の話を聴くたびに、公的資金を投入しないと離職を食い止めることもできないし、利用者やヘルパーのいのちは守れないと痛感する。

 同じ関西の訪問介護事業所でも、濃厚接触の疑いがある利用者宅に、100円ショップで買った眼鏡、ヘアキャップ、レインコートで対応した事業所もあるからだ。その事業所にはN95マスクや防護服等を大量にカンパしている。

都内のケアマネジャーDさん

「同じマスクを4日も使うヘルパーがいる」

 「仕事があって、お給料が出ていることがありがたい」という都内のケアマネジャーのDさんは、子育てをしながらコロナ対応に追われる。

 昨春から夏にかけ、彼女から同じマスクを4日も使っているヘルパーがいると聞いた私は、彼女が提携する訪問介護事業所にマスクや手袋などを送る呼び掛けをした。当時、マスクは一人一箱しか買えなかったため、東北大学の学生たちがマスクを買って送ってくれた。現在は自治体や東京都からの支給も少しあるが(発信がネットのみで知らない人は受け取りができない)、1事業所の個数が決まっており、職員が多い事業所ではすぐに無くなるという。

大阪・西成の高齢者デイサービス管理者Iさん

「対応しないと介護事業所は倒れ、行き場を失う高齢者が増える」

 「予防策と認知症介護の両立の難しさを日々感じます。人と人との間にボードを置いたり、席を離したりするのは、認知症や独居、孤食ばかりの人たちには別の弊害があると感じます」と語るのは冒頭に書いた西成の友人Iさん。彼は生活困窮者や元野宿者が多数を占める大阪市西成区の高齢者デイサービス管理者だ。

デイサービスの利用者の思い出のつまったゴーヤは、今年もまた実を結ぶ。デイサービスの利用者の思い出のつまったゴーヤは、今年もまた実を結ぶ。
 「デイが唯一、人との交流の場だという利用者が本当に多い。人は他者なしでは生きていけないから、消毒と換気、マスク着用をしっかりし、特に感染リスクの高い食事と入浴介助時には、マスク、ゴーグル、フェイスシールドを着用しています。たまたま感染者が出ていないが、高齢者にとって限られた時間をどう使うかも考えるべきです」と彼は話す。

 感染リスクが高くなる場面では濃厚接触にならないようマスク、フェイスシールド、ゴーグル着用を義務化している。「経営面では別枠の報酬がないと持たないところも多く、求人しても、この1年まったく人は来なかった。国や行政が真剣に考え早急に対応しないと介護事業所は倒れ、行き場を失う高齢者が増える」と危機感を滲ませる。Iさんは法人が運営する病院の看護師にも物資を渡した。自らのいのちに直結する物資を仲間と分かち合い、利用者のいのちに全身全霊で向き合ってきたIさん。

 だが彼のような献身的な介護職員を国はないがしろにし、いまも無策を貫いている。そのことは、職員が支えている利用者に最も影響していることに気づいて欲しい。

北海道で相談職として働くMさん

休めない、待遇も厳しい~「いまのままだと自殺者が出る」

 「いまのまま働き続ければ自殺者もでます」

 北海道で相談職として働くMさんからのメールに、私は息を飲んだ。彼女の勤務先は医療法人。 昨年12月、同法人の高齢者施設でクラスターが発生。50人以上の感染者が出てDMAT(災害派遣医療チーム)が入った。クラスター発生時、同法人の他の施設や母体病院から応援20人を派遣し、徹底した消毒や補助的作業を担った。20人以上の職員が感染したが、ピーク時には初めに感染した職員が復帰し、人員確保はなんとかなった。

 入居者のいのちをつないでいた昨年末、通常通り冬季賞与は支給されたが、「2021年以降、賞与を減額するか、もしくは3月の決算手当てが出せそうにない」と言われた。コロナ禍の長期化が給与面に影響していた。

 医療法人だからか、消毒液や感染予防物資は潤沢だった(ただしマスクは自己購入)。だがクラスターに対応した職員に出た特別手当は1日2000円とホテル代のみ。年末年始、職場かホテルに泊まっていたにも関わらず手当は少なく、職員の疲弊は凄まじかった。Mさんが知る実態も氷山の一角で、現場を担う職員は忙しく詳細は聞けていない。介護職とともに働く医療職は全員感染し一時は厳しい状態だったが、DMATの活躍で切り抜けた。

 彼女は、このままだと介護職員たちの心折れが多発するのではないかと危惧している。「自粛ムードも緩み、Go toフィーバーで一部の人だけが恩恵を受け、この事態。医療介護、福祉相談職はGo toキャンペーンなど関係なく、強制されなくても自粛生活を1年以上続けている。せめて現場職は1ヶ月働いたら2週間休むなどのシフトにしないと自殺者もでます」。

 彼女の危惧は、私も昨年の4月末から感じていた。そして、その予感は、今年3月16日の朝日新聞を読み確信となった。「介護職員につのる 心の負担」という記事で職員の心の病が急増していると報道された。

都内の特養に勤務するEさん

補助金も手元に届かない~「いつ燃え尽きてもおかしくない」

北砂ホームが法人から「社会貢献賞」を授与されたとき、「おばちゃんの会」から贈った花束。北砂ホームが法人から「社会貢献賞」を授与されたとき、「おばちゃんの会」から贈った花束。
 「いまのままでは、いつバーンアウト(燃えつき)してもおかしくないです」と話すのは都内の特養に勤務するEさん。 介護職員の給与は、大変な割に低く使命感や責任感が強い者が集まっているので何とか続けている状況だ。「都からコロナ対策の補助金等はありますが、職員の手元にはほぼ入りません。給与を上げられる経営体制にするには介護報酬のアップが必要です」と訴える。

 コロナ禍の影響で使い捨て手袋が不足しており、人材不足が緊張感にさらに追い打ちをかける。人を募集しても応募が少なく、ようやく入職しても過酷な現場についていけず、すぐ退職……。そのため希望休や有給休暇がとりづらく、職員たちはいつバーンアウトしてもおかしくない状態が続いている。

 利用者もまた職員に気を使い、満足できるサービスはなかなか受けられない状況だ。

政治、政策策定者に問う

失業者の誘導よりも、介護報酬引き上げで離職防止を

 1年以上、最も自粛を強いられてきた医療・介護現場の職員の思いを踏みにじるかのよう

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