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ワクチンを拒否する共和党支持者たち。分裂した米国は感染拡大を防げるのか

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 東京では、ついに政府が4度目の緊急事態宣言を発令。そんな中、無観客で東京オリンピックが強行される。理不尽な思いをどこにも持っていきようのない都民たちの何ともやりきれない思いは、想像するに余りある。

 筆者が在住するニューヨークは、2020年春には世界でも最大規模の新型コロナウイルス感染率と犠牲者を出し、セントラルパークにまで野外病院が臨時で設置された。市内がゴーストタウン化し、筆者もゴミを出しに廊下に出ることすら怖かった。

 だがあれから1年と数カ月が経過した現在、街は息を吹き返しつつある。レストランの屋内ダイニングも復活し、5月末からスポーツジムや美術館などの人数制限が解除された。オフィス出勤に戻る人々も増え、一時はガラガラだった地下鉄にも混雑が戻ってきた。市内では公共交通機関や学校を除くと、マスク着用義務も解除された。

 あれほどの感染状況から回復した鍵は、やはり昨年末から超スピードで実践された新型コロナワクチンの接種である。

/Shutterstock.com7月4日の独立記念日に打ち上げられた花火=ニューヨーク Ron Adar/Shutterstock.com

ワクチンの接種率と集団感染の関係

 7月11日現在、ニューヨーク州では二度のワクチン接種が完了(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製は一度)した18歳以上の人口が、およそ66.6%に達した。マンハッタンに限ると新型コロナワクチンの二度の接種が完了した人口比率は69.8%と、7割近い。

 アメリカ国内全体では、2回のワクチン接種が完了したのは18歳以上のおよそ58.5%という統計が出ている。中にはバーモント、ハワイ、マサチューセッツなど80%を超えている州もある。

lev radinshutterstockニューヨークの地下鉄駅構内に設けられたワクチン接種の会場 lev radin/Shutterstock.com

 それでも手放しで喜べないのは、過去何カ月もずっと下降線をたどってきた全米の感染率が、このところわずかながらも再び上昇してきているためだ。ワクチン接種率が極端に低い一部の州で、集団感染がじわじわと広がってきたのだ。

 この1週間で、全米で30カ所ほど新たな集団感染が報告された。中でも5カ所は規模が大きく、ジョージア、テキサス、ミズーリ、アラバマ、アーカンソー、オクラホマ、テネシー、ルイジアナの中部・南部の8州にまたがっている。これらの州のワクチン接種率は、テキサス州の41%を除いて全て30%台で、国内全体の平均値よりも大幅に低いというのが現実だ。

トランプ支持者と接種率の関係

 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の統計による色分けの地図を見ると、全米の中で接種率が高い州はワシントン、オレゴン、カリフォルニアの西海岸と、北東部沿岸に集中している。この分布図はどこかで見たことがあると思ったら、昨年の大統領選の民主党多数(青)と共和党多数(赤)の州分けと、ほぼ一致しているのだ。トランプ前大統領を支持した共和党多数の州の大多数が、平均以下の接種率を示しているのである。

 今更繰り返すまでもないが、その理由の一つはトランプ前大統領がパンデミック初期から、新型コロナウイルスを軽視する発言を繰り返してきたことだ。本人は大統領選前に感染し、退任前にはワクチン接種を済ませたものの、専門家の意見を軽視した当初の姿勢は、多くの共和党支持者たちの中に深く刷り込みされている。新型コロナウイルスは風邪やインフルエンザなどと変わらないと主張して、彼らはマスクの着用を拒否し続け、現在はワクチンを拒否しているのである。

 バイデン大統領が就任した当時、彼は自分に投票した国民にも投票しなかった国民にも平等に仕えると明言した。その約束通り、経済的援助、ワクチンの配布など、連邦政府は青赤どちらの州にも平等に対応してきた。だが半年たった現在でも、米国の分裂は改善されていない。その象徴的なものが、このワクチン接種率の分布図なのである。

ワクチンを拒否する人々の理由

/Shutterstock.comトランプ前大統領の影響でワクチン接種に反対する人たちもいる Drazen Zigic/Shutterstock.com

 昨年11月の大統領選では、どれほど簡単に人々がデマに踊らされるかが浮き彫りになった。現在新たな集団感染が起きている南部、特にアラバマ、アーカンソー、ルイジアナを中心としたディープサウスは全米の中でも経済的に貧しく、大学進学率がもっとも低い区域でもある。Qアノン陰謀説や「大統領選不正選挙」論に惑わされた層と、根拠のないワクチン陰謀論を信じる層は重なっているのである。

 その一方、中には

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