メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ウィシュマさん民事訴訟弁護団・児玉晃一さんに聞く入管・難民問題(下)

隣人を閉じ込め、難民を閉め出す日本。私たちは何をすればよいのか?

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 入管問題とは何か? 私たちはどうすればいいのか?
 児玉晃一弁護士に尋ねたインタビューの(下)です。児玉さんは長年にわたって、入管に収容された人をはじめ外国人の人権を守るために活動してきた方です。名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんがなくなった問題で、遺族らが近く国を相手取って起こす民事訴訟の弁護団事務局長も務めています。
 (下)では、入管・難民問題の背景や、人権侵害に「官製ヘイト」まで横行する日本の状況を変えるために私たちは何をすればよいのかなどを論じています。
 (上)はこちらからお読みください。
 児玉晃一(こだま・こういち) 弁護士
 1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業。91年に司法試験に合格し、94年に弁護士登録。2009年、マイルストーン総合法律事務所を開設。東京弁護士会外国人の権利に関する委員会委員(元委員長)、全国難民弁護団連絡会議世話人などを務める。

迫害される側を「テロリスト」と恐れた?

インタビューに答える児玉晃一弁護士=東京都渋谷区
 ――入管に長期収容される人は、2017年、18年に増えました。

 オリンピック・パラリンピックの年までに安全安心な社会を実現するという入管の局長通達が2016年に出ているんです。

 ――外国人を収容すれば安全安心な社会になると考えているのでしょうか。2001年の9・11米同時多発テロのあと、難民申請中のアフガニスタンの人たちが一斉に入管に収容された事件も担当なさいましたね。「テロへの恐怖」から、アフガニスタン人というだけでテロリスト扱いしたようにもみえます。

 どうもアルカイダのメンバーのリストがあって、それと同姓同名の人が難民申請していたので収容したらしいという話を聞きました。でも、日本でいうとスズキイチロウみたいな、ものすごくありふれた名前なんです。

 ――実際、アルカイダとは関係なかったんですね。

 ハザラ人ですから。タリバンによる迫害の対象になっている少数民族です。そういう勘違いをするくらいの分析能力しかないのは情けない限りです。

 ――同姓同名は1人ですよね。あの時は9人収容されました。

 たぶん「一緒にいたから仲間だろう」くらいのことじゃないですか。

アフガニスタン復興支援のためのNGOの国際会議がホテルで、「アフガン難民を収容しないで」と記した横断幕を掲げるアフガンの人たち=2001年12月13日、東京都千代田区

日本の難民認定率がダントツに低いのは

 ――日本は難民の受け入れもきわめて消極的です。2020年の難民認定率は0.5%。欧米の国々と比べ、ダントツの低さです。

 「テロリストだったらどうしよう」という恐怖からでしょう、「一人たりとも偽難民を入れない」という意識がものすごく強い。

 難民条約では、人種、宗教、国籍、政治的意見、特定の社会集団に属するという5つの理由で、迫害を受けるおそれがあるという「十分に理由のある恐怖」があれば難民なんです。それなのに非常にハードルの高い独自の解釈をしてしまい、客観的証拠まで求めるという異常な厳しさです。「おまえが狙われている証拠をもってこい」といわれても、そんなの不可能でしょう。

 「おまえはデモ行進に加わっていただけでリーダーじゃないから怖くないだろう」といわれても、一般のデモ参加者が捕まったり殴られたり銃で撃たれたりしているのであれば、自分も次はそうなるかもしれないという恐怖を感じる十分な理由があります。

「日本のシングルマザーだから」難民と認めた豪州の審判

 迫害のおそれがあるのかどうか、確かに噓をつこうと思えばつけるかもしれません。しかし、認定を誤って本来保護しなきゃいけない人を本国に帰してしまうと、本当に命を失うかもしれない。その判断ミスは取り返しがつかないわけです。

 難民を受け入れるのが嫌だったら、難民条約から抜けるべきでしょう。ほかの国は何万人も受け入れている中で、日本だけ40何人では条約に加入した国としての責務を果たしているとはとうていいえません。

 最終的に上訴審で覆されたのですが、シングルマザーであることによる不利益を理由に、日本人女性がオーストラリアの審判所で難民認定されたことがあります。職場ではセクハラをされ、家では恥だと言われて父親に殴られる。子どもはいじめに遭うだろう。それなのに国は助けてくれない。そう訴えて難民と認められたんです。現在も、海外で難民認定されている日本国籍の人が40人います。

入管の強大な権限、発端は70年前に

 ――日本は戦後、「共産主義者だ」とか「好ましくない」とみなした在日コリアンを強制送還しよう、「共産主義者」が日本に入ってくるのを防ごうとし、入管に強大な権限を与えたと聞きます。それがいまも続いているのでしょうか。

 まさにそのままつながっていると思います。当時の外国人問題とは在日朝鮮人の問題だった。アメリカから来た人がいまの入管法の骨格をつくったんですが、東西冷戦が始まるなか、在日朝鮮人を破壊活動分子とみなして帰そう、日本に入れないようにしようということで制度設計がされたようです。裁判所の審査もなく収容してしまうことには当時も反対論があったようですが、顧みられなかった。いまなら「テロを防ぐため」といえばなんでも通るのと同じような状況だったんでしょうね。そこが発端で、それからおよそ70年も続いています。

1959年に撮影した、大村入国者収容所(現在は大村入国管理センター)の内部。朝鮮戦争に伴う日本への密航者や、在日コリアンを送還するために収容した=長崎県大村市

「票にならない」壁をどう乗り越えるか

 ――児玉さんは2019年に日本記者クラブで記者会見をした時、入管・難民問題が改善されない理由として、「票にならない」ことを挙げていました。確かに在日コリアンからは日本国籍と選挙権を剝奪したので、彼ら彼女らの立場に立った政策をとっても「票」になりにくい。また、日本は

・・・ログインして読む
(残り:約1749文字/本文:約4134文字)