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全米フィギュアスケート選手権は感染者が続出。北京五輪はどうなるのか?

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 1月4日から9日まで、テネシー州ナッシュビルで開催された2022年全米フィギュアスケート選手権。北京オリンピックの代表選考会を兼ねたこの大会だったが、オミクロン株の感染に翻弄された。

 筆者が在住するニューヨークでは、屋内の公共の場ではマスク着用が義務付けられている。劇場に入場する場合も、ワクチン証明書、あるいは陰性のPCRテスト結果の提示が求められているが、それでも過去数週間は、ブロードウェイシアターなどで出演者、裏方の感染が相次いで公演のキャンセルが続いていた。

ニューヨークの中心部には多くの新型コロナウイルスの検査場が設けられ、行列ができていた=2021年12月17日ニューヨークの中心部に設けられた新型コロナウイルスの検査場=2021年12月17日

共和党多数派の土地でのコロナ対策

 一方テネシー州は共和党支持者が圧倒的に多い、いわゆる保守派のレッドステートの一つ。ロックダウンはもちろん、ワクチン接種、マスクの着用にも激しい抵抗を示してきた土地柄だ。現在でもワクチンの接種率が全米の中でも最も低い州の一つで、まだ51.7%である。

 この大会のチケット販売を始めた当初、観客に対するコロナ関連の規制は全く課されていなかった。だがオミクロン株の感染率が急上昇していった12月末、USFS(米国フィギュアスケート協会)は関係者のみならず、観客にも入場時のワクチン証明書、あるいは陰性テスト結果の提示を課すことに決めた。ただし「後出し」の条件だったので、同意できない人にはチケット代を全額払い戻しするというところに落ち着いたのである。

 筆者がナッシュビルに到着して驚愕したのは、マスクを着用している現地人がほとんどいないことだった。ホテルのフロントデスクの受付、清掃係、レストランのウェイターやバーテンダーもマスクなし。さすがにUberの運転手は頼むとマスクをしてくれたが、ライブハウスが建ち並ぶメインストリートの人混みでも、そしてライブハウスの中で大はしゃぎして一緒に歌を口ずさむ観光客も、マスクをしている人たちは皆無である。

 州と市の両方によってマスク着用が義務付けられているニューヨークでは考えられない、パンデミックなどどこ吹く風、といった光景だった。

 余談だが、興味深いことにナッシュビルの陽性率データは、ニューヨークよりも低い。だが数日間の滞在中に気が付いたのは、マンハッタンではどこにでもあるPCR検査の看板を、ナッシュビル市内ではついぞ一度も見かけなかったことだ。陽性率はあくまで検査を受けた人々から割り出すので、実際の感染者はもっと多いことは間違いないと思う。

万全の予防策を設けたUSFS

 そんな中で開催された全米選手権では、USFSも万全の予防策をとった。

 関係者は到着の78時間以内に受けたPCRの陰性結果の提出を義務付けられ、ワクチン接種を終えていない人々は、さらに到着時に簡易検査を受ける。またワクチン接種の有無に関わりなく、関係者全員に到着後4日ごとに簡易検査を受けることが義務付けられた。

 ミックスゾーンでは選手とメディアの距離が5メートルほどあり、記者会見場も椅子の間のスペースは十分にとってある。現地に来た記者の数も普段に比べて半数ほどで、Zoom取材を選んだ記者も多かった。

全米選手権の記者会見は距離をたっぷり取っておこなわれた=撮影・筆者全米選手権の記者会見は距離をたっぷりとっておこなわれた=撮影・筆者

 またUSFSは普段はずっと会場につめたきりの記者たちのために食事も提供してくれたが、今回は飲料水とコーヒーなど最小限のものだけ支給され、飲食用のラウンジスペースも割愛された。

 それでも、日々関係者の感染は増えていった。

次々増えていった感染者たち

 最初に発表された感染者は、昨年の全米ペアチャンピオン、アレクサ・クニエリムのパートナー、ブランドン・フレイザーだった。少し喘息の傾向があるというフレイザーは発熱もあったという。関係者たちの間で動揺が走ったが、これはほんの始まりに過ぎなかった。

2021年11月のNHK杯にも出場したアリサ・リュウ 2021年11月のNHK杯にも出場したアリサ・リュウは陽性により全米選手権のフリーを欠場した
 次の感染者は元全米女子チャンピオン、16歳のアリサ・リュウだった。SPを終えて3位になった後、
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