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動き出した「社会教育士」、学び支える固有の役割は守れるか

行政の狙いは地域課題の解決、その課題と広がる活動への期待

樫村愛子 愛知大学教授(社会学)

「社会教育士」という新しい称号

 あらゆる世代の人々が社会の中で自由に学ぶことを支援する専門人材「社会教育士」の制度ができて2年。この春には大学での養成課程を修めた学生が社会に出始めた。このタイミングで、制度の現状と課題を整理してみたい。

 社会教育とは、学校教育以外の(家庭教育も含むとされる)すべての教育を指す。この分野は長く、公機関の専門職員である「社会教育主事」が担ってきた。その機能を広げるために文部科学省は2020年、新たに「社会教育士」という称号を作り、それにともなって大学での養成課程も改編された。

 「社会教育主事」の資格は主に、官公庁や教育施設などで一定期間働いた人が、定められた講習を受けて取得している。しかし、これは「任用資格」で、都道府県や市町村の教育委員会に採用されないと、その資格は有効ではない。資格を持っていても、それだけでは「社会教育主事」と名乗ることはできないうえ、ポストも限られている。

 一方で、様々な地域課題を解決するために社会教育を担う人材のニーズは高まっている。そのため、文科省は、企業やNPO、行政機関、地域社会や学校などで活動する専門職「社会教育士」という称号を作った。

 文科省は「社会教育士」に地方創生や地域学校協働などでの役割を期待している。その狙いは、養成のための大学の科目の変更に表れている。従来の「社会教育計画」科目が「社会教育経営論」となり、計画をたてるだけでなく予算獲得のような内容も加わった。新設された「生涯学習支援論」では多様な学習支援と、ファシリテーションなどの能力の両方を見据えている。さらに「社会教育実習」が必修となった。

GoodStudio/shutterstock.com

効率重視の「変節」を問題視

 日本の社会教育は、古くは公民館教育運動に代表されるように、学校教育がまだ行き渡っていない時代に、学校で十分に学べなかった成人に対する教育や、戦後民主主義を発展させることを目指してきたという歴史的経緯がある。その後、高度経済成長を経ると、「生涯教育」という概念になってきた。内容も社会の変容に伴い、その役割を変えてきた。

 最近の社会教育のあり方については、研究者から社会教育の「新自由主義的変節」を問題視する声が上がっている。

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