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障害者を雇用する企業に「機会の平等」の本来の趣旨が伝わっていますか

高野龍昭・東洋大学ライフデザイン学部准教授に聞く

鈴木理香子 フリーライター

 4月、神戸市は、指定難病のため障害者手帳を持つ同僚に暴言を吐いたなどとして、同市水道局の職員3人と上司2人を停職処分にした。社会の多様化が重視されるなか、障害者の雇用は「障害者雇用促進法」で定められ、企業は「常時雇用している従業員の2.3%に相当する障害者を雇用すること」が義務付けられている。だが、今回の神戸市のように、障害者雇用にはまだまだ課題が多い。この点について、障害者や高齢者の福祉に詳しい東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科准教授の高野龍昭さんに話を聞いた。

高野龍昭(たかの・たつあき)
1964年島根県生まれ。1986年から医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーの実務を経験し、2005年から東洋大学で介護福祉士などの福祉専門職養成と高齢者福祉・介護保険制度・ケアマネジメントの研究を行う。社会福祉士・介護支援専門員。

Fagreia/Shutterstock.comFagreia/Shutterstock.com

──障害者雇用促進法では、企業などの事業主に対し、従業員の一定割合以上の障害者を雇うことが義務付けられ、法定雇用率は現在2.3%、国や自治体など公的機関では2.6%となっています。

高野 法律の名前だけみると、確かに“企業や事業者が障害者を雇うことを勧める法律”と捉えてしまいがちですが、本来の趣旨は、“障害者が社会から排除されることなく、就労の機会を得られるべき”というところにあります。

東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科准教授の高野龍昭高野龍昭・東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科准教授
──働く機会は誰にでも平等にある、ということですね。

高野 そうです。ですが、その趣旨が正しく企業側や事業者側に伝わっていない点があるとしたら、それは大きな問題です。2.3%という法定雇用率を超えて雇っている企業や事業者に対しては、インセンティブとして国から雇用調整金や報奨金、助成金が支給されます。

 一方で、その雇用率を達成していない企業には、雇用納付金という、言わば罰金が徴収されたり、企業名が公表されたりします。こうした“アメとムチ”の施策と理解されてしまっていることで、障害者にも可能な限り雇用の機会を与える「機会の平等」という本来の目的が事業主等にうまく伝わっていないのではないかと、危惧しています。

理解がないままの障害者雇用は互いの関係性を悪くする

障害者を対象にした合同面接会=東京都千代田区202110月障害者を対象にした合同面接会=2021年10月、東京都千代田区

──厚労省の報告「障害者雇用状況」によると、2021年6月時点で雇用障害者数は59万7786人で、前年より人数では1万9494人、割合では3.4%増えています。企業において多様性が求められていることが背景にあるのかわかりませんが、これはともに過去最高を更新したそうで、この傾向は公的機関でも同じです。

高野 今は働き方の多様化に限らず、さまざまな特性がある人を雇うことが企業イメージのアップにもつながることから、最近では障害のある人を積極的に雇用する企業や事業者が増えていると思われます。それはそれでとても喜ばしいことですが、障害者雇用の本質的なところを理解したうえでないと、結果的に働きにくい環境で障害者が就業することとなります。それは当事者にとっても、周囲の従業員にとっても不利益を招く要因になりかねません。

──それが今回の問題にもつながると?

高野 詳しい背景はわかりませんが、少なくとも公共の組織である市役所で起こるというのはいただけないですね。これは水道局職員の問題というよりも、障害者差別を防ぐ義務を果たせていない各部署の管理者、さらには市長の責任でもあるでしょう。

──組織としてのガバナンスの問題ということですか。

高野 当然、同じ職場で障害がある人が働いていれば、周囲のサポートも必要になります。2013年に制定された法律に「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」があります。これは、障害の有無によって分け隔てることなく共生するための配慮を行うことや、障害を理由としての差別をなくすことを定めた法律で、「差別に関する指針」を定めることになっています。

──「差別に関する指針」というのはどういうことでしょうか。

高野 例えば、車イスを使っている人が働くフロアに車イス専用のトイレやスロープを作るとか、勤務するにあたっての必要な支援をするなどという、いわゆる“合理的配慮”を適切に行いましょうという指針を指します。しかし、それを一般的かつ常識的に考えれば、同じ職場で働く障害のある人を差別しないということも含めた指針だと捉えるべきでしょう。

 ここでは、先に話したように就業の機会は誰にでも平等に与えられるということと共に、企業や事業主の社会的責任が重要になってきます。周りが協調しながら障害者のサポートをしていくことの必要性を理解しないまま、その大事なことが抜け落ちた状況で障害者を雇用することになれば、かえってお互いの関係性を悪くして、働きづらくなるということが起こってきます。そこを企業や事業者がわかっているかどうか、が最も重要なんですけれどね。

高齢者と障害者との違いとは

──高野さんは高齢者の福祉が専門です。雇用の問題も含めて、高齢者と障害のある人との向き合い方に違いはあるのでしょうか。

高野 一番大事なことは、

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