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安倍元首相銃撃・殺害事件をテレビはどう報じるか

[7月9日~7月17日]安倍元首相銃撃事件、参院選、旧統一教会……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

7月9日(土) 朝5時過ぎに目が覚めて、よくよく考えてみる。安倍元首相銃撃・殺害事件についてここは保阪正康さんに是非とも話を聞きたいものだと思う。それで朝早く、Dに電話でその件などを話して協議。Dの意見では、この事件によって、選挙の投票がおろそかにならないように、有権者に呼びかける役割を『報道特集』という番組に期待している声もあるのではないか、という点も考慮したいとのことだった。

 なるほどそういう見方もある。その場合は、敢えて事件前に収録した斎藤幸平さんのインタビューのエッセンスを放送する選択肢もあると。市民に冷静さを喚起することは今の時点では重要なことだ。早めに局に向かい、そのことをプロデューサーらと話す。何しろ保阪さんが全くつかまらないのだ。

 結局、斎藤幸平さんのインタビューのエッセンスを放送することに決定。『報道特集』のプレビューは大部屋で行うことになった。報道局長に就任したばかりのYが大部屋に顔を見せていた。「今の事態は、報道局長が番組に出演して見識を示すこともありなのではないか」と話を向けたが、笑っていた。こちらは本気だったが。

 現場取材がぶ厚く、それぞれのパートがそれぞれの役割を果たしていた。膳場貴子キャスターが藤原帰一・東大名誉教授にインタビューをしていた。藤原教授の主張には切実な思いが込められていた。結果的に、若者層に選挙での投票をおろそかにしないように呼びかけていた斎藤幸平さんのインタビューも意味をもっていた。他の報道番組とは、かなり切り口も異なる独自の内容が出せたのではないか。自分も含め、キャスターとしてのコメントにもいつも以上に力が入ったような気がする。

Tプロデューサーを送るスタジオでの会にてTプロデューサーを送るスタジオでの会にて=撮影・筆者
 オンエア終了と同時に、ぐったりと疲れが出た。奇しくも今日の回を最後に、Tプロデューサーが人事異動で社会部長に転出することになり、オンエア終了後にスタジオで花束贈呈などのセレモニーが行われた。何だか、いてもたってもいられず、その後K、Xらと反省会。

選挙特番が色あせて見える

7月10日(日) 参議院選挙の投開票日。安倍元首相銃撃・殺害事件が投票行動にどのように影響を及ぼしたのか。僕は、と言えば、入院中の母親の関係で、新幹線で富山に移動。そのまま病院で母親と1時間面会。その後ももろもろの動き。Hさん。

 参議院選挙は投票率がようやく5割を回復し、前回より若干持ち直したようだった。午後8時の投票締め切りと同時に政党別予想獲得議席数をドカンと出す。このところの選挙特番の定番スタイル。今回ほど、選挙報道は事前にどこまで論点を深く掘って提供することが大切かを痛感したことはない。ましてや安倍元首相銃撃事件という衝撃的出来事で一種ショック状態になった国民に、何を言わなければならないのかを考えさせられたことはない。

当日の選挙特番より 途中でテレビを切ってしまった当日の選挙特番より。途中でテレビを切ってしまった=筆者提供
同

 結果は、「事件前に」各メディアが予測していた獲得議席数とほとんど変わっていないではないか。「弔い合戦」とか杞憂していた人々の予想は外れて、今回の事件はむしろ、投票に出向くような影響をもたらしたのではないか。詳細な分析が待たれる。選挙特番も何だか色あせて見える。

参議院の政党別議席獲得数(左)参議院の政党別議席獲得数=選挙特番より、筆者提供
週刊文春の議席獲得予想数参院選前の「週刊文春」の議席獲得予想数=筆者提供

安倍元首相の葬儀生中継は、国葬の予行演習ではないか

7月11日(月) 朝、10時から富山市内の病院で医師からの説明を受ける。富山市内で乗った個人タクシーの運転手さんが、大昔、富タクで働いていたことがあって、その時代の社長が僕の父親だったとのこと。車内で携帯電話で会話をして、その時に聞こえた金平という苗字から、すぐにわかったのだという。「組合活動をやっていて、あなたの父上とは随分やりあった。とても熱い人だった。ああいう人はあまりいない」と笑いながら語ってくれた。

 その昔、僕の父親は地方銀行を退職した後、富山タクシーという小さなタクシー会社に転職していたのだった。おそらく組合活動との対立があって、父親のことだから激しく組合つぶしに動いたのかもしれないなあ。父親は中卒から叩き上げで、仕事一筋で苦労した人間だった。

 午前11時過ぎの新幹線で東京に戻る。16時半から早稲田大学のゼミ。この事件後、初めて第三者とともに事件報道を吟味する場となった。ゼミ参加者も一様に衝撃を受けているようだった。ただ、事件直後の時と比べて、事件の容疑者の動機形成に関する情報が報じられ始めているので、少なくともゼミ参加者の反応はヒステリックなものはほとんどなかった。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への確信的な憎悪という動機。

 ゼミ終了後、そのまま早稲田に残って18時からメディア学会の臨時部会。オンラインで。さらに20時からは神保町界隈の不快事をめぐるオンライン会議。何だかひどく消耗した。

 21時30分から新宿でO氏。ほとほと疲れ果てたことをお互いに自嘲気味に確認し合う。

7月12日(火) 朝から神保町界隈の不快事の関連で連絡あり。ストレス解消のため朝、がんばってプールへ行き泳ぐ。いつもより長めに泳いだ。

 7月27日の大阪地裁の法廷で赤木雅子さん原告本人の尋問取材をすると、同日内のシカゴ行きに間に合わなくなることがどう考えても明らかだ。まいった。

 テレビは安倍元首相の葬儀を生中継で報じるので大々的な取材陣が送り込まれている。わが道を行くのはテレ東とEテレくらいだ。とりわけNHKはヘリ空撮も含めてどれだけカメラ数を出しているのか。これ、もう実質的に国葬の予行演習みたいな形ではないか。

霊柩車の動きを刻々と生中継していたテレビ各局テレビ各局は安倍元首相の棺を載せた霊柩車の動きを刻々と生中継していた=筆者提供
安倍元首相の葬儀安倍元首相の葬儀を報じたニュースより=筆者提供

 神保町界隈をめぐる不快事で、内容を吟味。“窓”と“鏡”。Yに書面。ウクライナ行きの便を押さえる。7月30日の未明にワシントンD.C.から生中継後、その日のうちにDCを出れば、ウィーン経由でルーマニアのヤシ空港に着くことができる。強行軍だが、そのオプションしかない。

 Iさんから連絡。統一教会のアメリカ人元幹部がみつかる。70年に東京で国際勝共連合の大会に出席、

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