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最後の4回転「4アクセル」に成功したイリア・マリニンとは何者なのか?

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 2022年9月14日、フィギュアスケート史上に新たな歴史が刻まれた。米ニューヨーク州レイクプラシッドで開催されたチャレンジャーシリーズ、USクラシック・インターナショナルで、アメリカのイリア・マリニンが試合で世界初となる4アクセルジャンプを成功させたのだ。

 このマリニンとは、一体何者なのか。

2019年8月に同じくレイクプラシッドで開催されたジュニアGPで撮影したお宝写真です。両親と2019年8月、米レイクプラシッドで開催されたジュニアGP(グランプリ)シリーズの大会で4位になったイリア・マリニンと両親=撮影・筆者
 年季の入ったフィギュアスケートファンなら、タチアナ・マリニナの名前を憶えているだろう。ロシア生まれ、その後家族と共に移住したウズベキスタンの代表選手(女子シングル)で、1998/1999年シーズンにはGP(グランプリ)シリーズNHK杯優勝、そして設立されたばかりだった四大陸選手権の初代チャンピオンになった。

 2002年に競技を引退したマリニナは3ルッツが得意で、ジャンプの高さ、エッジの正確さに定評があった。その彼女が、自分のコーチでもあった元ウズベキスタン男子チャンピオン、ローマン・スコルニアコフと結婚。移住先のアメリカ、ヴァージニア州で二人の間に誕生したのがこのイリア・マリニンなのである。幼少時から両親に指導を受けて育った、純血サラブレッドともいえる選手である。

マリニンが4回転アクセルに挑戦した理由

史上初めて試合で4アクセルに成功したイリア・マリニン(アメリカ)。まだ17歳史上初めて国際スケート連盟(ISU)公認大会で4アクセル(4回転半ジャンプ)に成功したイリア・マリニン(アメリカ)。まだ17歳

 現在17歳のマリニンは、米国内ではノーヴィス(ジュニアの下のクラス)の頃から注目されていた。だが怪我とパンデミックが重なり、本格的にスポットライトを浴びたのは2022年1月にテネシー州ナッシュビルで開催された、北京オリンピックの代表選考を兼ねた全米選手権でのことだった。

 シニアとして初挑戦したマリニンは、母親譲りなのかルッツが得意で、安定した4回転ルッツを跳び、フリーでは他にサルコウ、トウループの3種類の4回転を合計4本成功させた。SP、フリーともノーミスで滑り切り、優勝したネイサン・チェンに次いでサプライズの銀メダルを手にしたのである。

 「自分は北京オリンピックに行く資格があると思うか?」とフリー後の会見で聞かれて、「はい、それに相応しい実力があることを証明できたと思う」と答えた。

 だがUSFS(米国フィギュアスケート連盟)はまだ国際大会ではジュニアレベルで競っていたマリニンを選ばず、3位のヴィンセント・ジョーと4位のジェイソン・ブラウンのベテラン勢をネイサン・チェンと共に北京オリンピックに送った。

 3月には自身初のシニア世界選手権となった仏モンペリエ世界選手権に出場。SPで4位と好調なスタートをきったものの、フリーではミスが出て11位、総合9位という結果だった。その後、予定より遅れて4月にエストニアのタリンで開催された世界ジュニア選手権で優勝し、タイトルを手にした。

 自らのインスタグラム名は「クワッドゴッド」(4回転の神様)。全米選手権で記者に聞かれると、マリニンは「そういう存在になれたらいいな、という願望です」と照れながら答えた。

米ニューヨーク州レイクプラシッドで開催されていたチャレンジャーシリーズ、USクラシック・インターナショナル4アクセルを成功させたUSクラシック・インターナショナルで=2022年9月14日、米ニューヨーク州レイクプラシッド、撮影・筆者

 そのクワッドゴッドは今年の春に、4アクセルを練習中に片足で着氷したビデオを公表して話題になっていた。

 彼は、おそらくこの初戦のUSクラシック・インターナショナルで4アクセルを試すだろうという予感があった。その理由はまず、

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