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見て、知って、楽しむ 福井のミュージアムツーリズム(上)恐竜博物館、年縞博物館

【18】本物に出合う! “地味にすごい、福井”の博物館

沓掛博光 旅行ジャーナリスト

  博物館というと興味が湧かない、退屈だといった印象をお持ちの方も多いと思われるが、そんな負のイメージを打破したのが福井県の恐竜博物館である。オープン以来、子供から熟年層まで幅広い層に受け、今年の8月には通算入館者数が1200万人突破という快挙を成し遂げた。一般になじみは薄いが地層の年代を確定する世界的なものさしとなっている年縞を展示したユニークな年縞博物館もある。さらに今年の10月には戦国時代の遺構をまるまる取り込み、大名の館を原寸で再現、展示した一乗谷(いちじょうだに)朝倉氏遺跡博物館がオープンした。コロナ下での入館制限を設けながらも連日にぎわっている。

 2024年の北陸新幹線の敦賀延伸を間近に控えて福井県が掲げるキャッチフレーズ“地味にすごい、福井”ではないが、地味だけど他にはない価値を秘めた博物館巡りがおもしろい。見て、知って、楽しむ福井県のミュージアムツーリズムを紹介しよう。

福井の観光を牽引する県立恐竜博物館

 福井県の北東部にあって、霊峰白山を仰ぐ勝山市には全国的に知られる福井県立恐竜博物館がある。この8月12日に通算入館者数が1200万人を突破したという人気の博物館である。周囲を山に囲まれた勝山市の郊外に立ち、卵型のドームが目印。館内には千数百点の恐竜に関する標本や実物化石10体を含む44体の恐竜全身骨格などを展示。訪れる人をあっと驚かせる仕掛けなど設けながら、ジュラシック・パークならぬ実存した恐竜の世界へ導いてくれる。

見学者に人気の福井県立恐竜博物館のティラノサウルスのロボット(筆者撮影)

 展示は地下1階のダイノストリートから始まり、1階に上がってまず目に飛び込んでくるのが中生代白亜紀後期(およそ1億年前)に生存し、最強の恐竜と言われたティラノサウルスのロボット。色や形が精密に作られ、時折鋭い歯を見せながら口を開けて鳴き、右に左に体を動かす。標本や骨格模型など動かぬ展示が当たり前の科学博物館にあってこのロボットの展示は一種の衝撃でもある。子供ばかりか大人もまず、この動く恐竜に目が引かれるようだ。インスタ映えをねらってか、多くの人が携帯やカメラで写真をとっている。

 この後ろ側には200インチの大きなスクリーン2面が向かい合って設置されている。スクリーンを見ていると今まさに肉食の恐竜ヤンチュアノサウルスがジャンプし、思わず首をすくめる間に対面するもう一つのスクリーンに飛び越えた姿が映し出されている。「あっ!」と思わせる対面スクリーンによる動画の活用も従来の博物館にはない展示方法である。

 その先にはジオラマ「中国四川省の恐竜たち」のコーナーがあり、大型の草食の恐竜オメイサウルスを展示。博物館の案内では、よく観察しないとわからないほどかすかに体の一部を動かしているという。ここは恐竜の肺の部分とか。こうしたリアルな演出とも言える展示も多くの入館者を引きつけている要素のひとつだろう。こんな小さな発見もこの博物館の楽しさ。見学者の感想には「ここに来てますます恐竜が好きになった。将来は恐竜の研究者の道に進みたい」といった感想も寄せられていると博物館の担当者は言う。

恐竜が生きていた時代を再現したジオラマ(筆者撮影)

学術研究とエンターテインメントが両輪

 ジオラマ展示の先には福井県で発見された恐竜の骨格標本や化石などが展示されている。中でもフクイベナートル、フクイサウルス、フクイラプトルは復元されて全身骨格を展示、いずれも博物館に近い北谷町で発見されたものだ。

 恐竜博物館は2000年に開館したが、そのきっかけとなったのは1982年にこの勝山市北谷町の川岸で中生代白亜紀前期のワニの全身骨格の化石が発見されたことだ。以後、周辺で次々と恐竜の化石が発見され、福井県は“恐竜王国”と呼ばれるほどに広く知られるようになった。

 1993年に公開された映画「ジュラシック・パーク」の人気も背景にあると考えられるが、開館以来入館者は全国から訪れ、2年目にして入館者は100万人を突破、以後、2006年に通算200万人、2011年に同400万人と短期間に増加している。その要因を竹内利寿館長にうかがうと「当館は研究施設と福井県を代表する観光施設の二つの役割を持っている」と説明してくれた。エンターテインメント性の創出や話題作りも大切にし、入館者が五感を使って楽しく学べる博物館の運営を心掛けているという。

 また、福井県交流文化部ブランド課の恐竜戦略室によると、2009年より恐竜博物館の管轄を県の教育委員会から交流文化部の前身である観光営業部に移管し、国内外への発信やブランド力の強化を目指したという。「恐竜をキラーコンテンツに、ブランドを有効に発信するためです」と斉藤輝幸室長は語る。

 観光は非日常の中で楽しみを求める旅と言われるが、恐竜という非日常の世界を体感し、楽しめるこの博物館はまさに観光そのもと言えよう。また、研究機関としては現在、常時16名の研究スタッフが所属し、古生物や地質などの調査、研究を海外の研究機関と提携しながら進めている。

 福井県では後述の福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館も交流文化部に所属している。博物館を学術研究の場に加えて観光資源としてブランド化し、地域振興の推進も図っていると言える。なお、恐竜博物館は新館工事のため12月5日より休館し、2023年の夏にリニューアルオープンの予定。生まれ変わる博物館では高さ9メートル、幅16メートルの大型3面スクリーンや化石発掘体験など体感型施設や体験プログラムをさらに充実してお目見えするという。

3階にあるディノカフェでは恐竜にちなんだ化石発掘オムライス(左)やティラノパフェ(右)が人気だ(筆者撮影)

旬の越前ガニで本場の味に舌鼓

 福井県の博物館を巡る旅(ミュージアムツーリズム)のもう一つの楽しみに食がある。

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