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人民元、完全変動相場制への遠い道

藤原秀人

藤原秀人 フリージャーナリスト

 中国の若者たちが反日デモを各地で繰り広げた記憶がまだ生々しい2005年7月21日夕のことだった。中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が、人民元の為替レートを1米ドル=8・28元から1米ドル=8・11元に切り上げる、と発表した。切り上げ幅は約2%で即日実施された。

 切り上げの決定は直前に、中国人民銀行から北京駐在の日米金融当局者に伝えられた。

 筆者は当時、中国総局長として小さいながらも総局の金庫を管理していた。だから、対中貿易赤字に苦しむ米国からの圧力などを受けて、切り上げ観測が長い間流れていた人民元レートがいつ動き出すのかについては、身近な関心を持っていた。だから、今でも当時の事情をよく覚えている。

 中国人民銀行は5年前の人民元切り上げのとき、次のような理由をあげた。

1)内需を中心とする持続可能な発展戦略の徹底や資源配分の改善

2)金融政策の独立性の強化や金融調整の主体性の向上

3)輸出入の基本バランスの維持

4)国際競争力の向上

 それから3年の間、人民元は上がり続けた。金融政策の独立性の強化はさらに進み、管理された変動相場制が完全変動相場制に変わる日も近いのではと、いう予測も出てきた。

 だが、現実は米国に端を発した世界金融危機のため、3年間で米ドルに対して21%上昇した人民元レートは北京五輪直前から、実質的にドル連動制に戻ってしまった。

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