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必要なのは「日本ブランド再建戦略」だ

脇阪紀行

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 民主党代表選挙が行われていた間、国際社会による日本政治の「格付け」は急降下を続けた。政界の「闇将軍」であり、「壊し屋」として知られた小沢一郎前幹事長が日本の次期首相になるかもしれない現実は、外国メディアを震撼させた。首相が次々と交代し、存在感を弱める日本は、国際政治の将来を考える上でのレファレンス(準拠枠)にもならない。最近の日本に向けられる視線はそういう冷ややかなものに変わりつつある。

 日本政治の「格付け」の降下を食い止め、日本という国のブランドをどう立て直していくのか。それこそが菅直人政権の大きな戦略的課題となろう。まずは来週、ニューヨークで開かれる国連総会での菅直人首相の言動が最初の試金石となる。

 小沢一郎氏が外国メディアの批判の的になっている例をここで多くを紹介する必要はないだろう。英エコノミスト誌は毎週、小沢批判の記事を組んだ。最新号では「日本のリーダーシップへの挑戦―その暗黒面」と題する記事で小沢氏の故郷、岩手県に公共工事で作られた通称「小沢ダム」を紹介し、「数」と「カネ」を源泉とする小沢氏の権力構造を分析して見せた。

 菅首相の続投が決まったことで、日本たたき(ジャパンバッシング)へと議論が進むことは避けられそうだ。しかし日本離れ(ジャパンパッシング)の風が弱まる気配はまったくない。例えば、9月10日付英フィナンシャル・タイムズ紙の論評でフィリップ・ステファン氏は、「問題は、欧州が傍観者だとの印象を与えていることだ。世界の舞台から見えなくなった日本と同じ印象を与えている」として、米中の「G2」論が高まる中で欧州が発言権を確保するために日本を反面教師にすべきだと論じている(「欧州の空想の先にあるのは、無関係な日本(Europe daydreams its way to Japanese irrelevance)」)。

 私が日本の「ブランド戦略」が必要だと考えるのは、日本が対外発信するさまざまなメッセージをより強化し、アピール力を強める必要があると考えるからだ。中国は国内総生産(GDP)で今年、日本を追い抜き、この秋には、韓国がG20首脳会議をソウルで開催する。日本政治の漂流をここで食い止めなければ、日本は「ジャパン・アズ・ナンバー3」としての評価や発言権さえも失うことになりかねない。

 ちょうど1年前、民主党への政権交代直後に起きたことを思い出す。

 鳩山由起夫首相は、持論の「東アジア共同体論」についての論文を月刊誌に寄稿し、それがそのまま翻訳されて米紙に掲載された。友愛精神による東アジア共同体づくりの重要性を論じた主張内容に加えて、英語の論文として稚拙な構成だったことが響いて、米国では鳩山政権が対米関係の見直しに動くのではとの疑念を招いた。ある米国人学者は「これが学生の論文なら不合格だ」と評したほどだった。その後、沖縄の普天間基地返還問題をめぐって、日米関係がぎくしゃくした伏線がそこにあったように思う。

 意見が異なる点は堂々と論じればいいが、鳩山論文は不必要な誤解を生んだ部分が少なくなかった。少なくとも、首相の主張を英語に翻訳する際には、その中身や構成を専門家がチェックし、誤解を招かないよう修正を行うべきだったのではないだろうか。細かいことだが、この作業がなかったために、日本のブランドは傷ついてしまった。

 「ブランド戦略」は単に表面的なつくろいを良くすることではなく、政策とメッセージの内容を吟味することでもある。

 来週、ニューヨークの国連本部ではまず、「ミレニアム開発目標(MDGs)」に関する首脳会議が開かれる。開発途上国の貧困を2015年までに半減させ、乳幼児の死亡率や教育・保健状況も改善する。2000年の国連サミットで採択された目標の達成度を点検し、目標達成への政治的意思を確かめるのが首脳会議の狙いだ。

 この世界不況の中で、先進各国は財政赤字の削減に向かっているが、それでも英国は保守党政権になっても政府の途上国援助(ODA)予算を堅持する方針を示している。これに比べて日本は

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