メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

米ロ取り込み、外交攻勢に出るASEAN

脇阪紀行

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 ベトナムではいま、首都ハノイの建都千年を祝う記念行事が盛大に行われている。西暦1010年、当時、昇龍(タンロン)と呼ばれる地を首都とした李朝は、国境を接する中国と交流を続ける一方で、民族意識あふれる国を築いた。重要な交流相手であると同時に潜在的な脅威でもあるーーベトナムにとって中国は、歴史的に、そうした微妙な間柄にある。近年では1979年、両国はカンボジアへの影響力をめぐって戦火を交え、今は南シナ海の島々の領有権をめぐって対立している。

 そのベトナムが今年、東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国となり、年2回のASEAN首脳会議を主催することは、中国にとって好ましくない外交環境の一つと言っていいだろう。10月28日に開幕するASEAN首脳会議、その後のASEANプラス中国、さらに米ロ両国が初参加する東アジアサミットといった一連の国際会議で、中国の発言と行動は厳しくチェックされるに違いない。

 中国が東アジアの海洋権益をめぐって強硬姿勢を取って、日本を含む周辺国と摩擦を起こしている間に、米国がASEANに急接近していることは、WEBRONZA(ウェブロンザ)ですでに論じた(8月16日「東アジアの構造変化の中で進む米中対立」)。7月にハノイで開かれたASEAN安保フォーラム(ARF)でクリントン米国務長官が「(南シナ海での)航行の自由を守ることは米国の国益だ」と発言したのは、明らかに、海洋権益をめぐる中国の拡張的な動きをけん制したものだった。

 その後、オバマ米大統領は9月、ニューヨークでの国連総会中にASEAN首脳と再び会談し、南シナ海を含む問題を話し合った。米国は東アジアサミットのためにクリントン長官を再びハノイに送り込む。中国の軍備拡大や通貨人民元など複雑な問題を抱える中国を強く意識した旅になるのは間違いない。

 興味深い動きはこれだけではない。10月12日、ASEAN10カ国に域外8カ国を加えた初の拡大ASEAN国防相会議が招集された。日米中にロシアや豪州が招かれた会議では朝鮮半島情勢とともに再び、南シナ海の領有権問題がおおっぴらに論議された。ゲーツ米国防長官の「米国は太平洋国家であり、地域に常駐するパワーだ」との発言を記者会見で紹介したスリンASEAN事務局長が「海洋の安全保障での協力推進も合意されたんだ」と胸を張ったのも無理はない。この拡大国防相会議は2年後にも開催される予定だ。

 こうしたASEANの外交攻勢を「中国封じ込め」と見るのは誤りだ。ただ安全保障面で、こうした動きが、中国の膨張圧力を押し返す力になっているのは間違いない。

 ASEANと中国との首脳会議では、紛争の平和的解決への努力をうたった2002年の「南シナ海行動宣言」を、拘束力を持つ「行動規範」に格上げするかが焦点の一つだ。ASEANは、「領土問題の解決は最終的には2国間でなすべきだが、協議を進める土台は必要だ」(スリン事務局長)として、「航行の自由」「紛争の平和的解決」といった原則を行動規範に盛り込みたい。しかし中国側は海軍の行動を制約するような規範づくりに難色を示している。7月のARFの時は、南シナ海での中国軍の行動への批判に、声を荒らげて反発した楊潔チー(ヤン・チエチー、チーは竹かんむりに褫のつくり)外相が、どんな発言をするのか。また、南シナ海の領有権はチベットや台湾問題と並んで、中国の「核心的利益」という表現をしてきたとされるが、中国政府高官が朝日新聞記者に「公式に使ったことはない」(10月23日付朝刊)と微妙な変化を見せていることも見逃せない。

 視野を広げると、今年の東アジアサミット(ASEANプラス日中韓豪印など6カ国で構成)には初めて、米ロ両国の外相が「特別ゲスト」として参加し、来年、ジャカルタのサミットではオバマ、メドベージェフ両大統領出席への道筋をつける予定だ。太平洋の海洋支配権に関心を持つ米ロ両国の参加は、地域の安全保障秩序構造を大きく変えるものだ。当面は、中国の海洋権益の拡大欲へのけん制要因として働くと見ていいだろう。

 何度も繰り返すようだが、ASEANを軸とし、米ロを取り込みつつ、東アジアを越えた国々のネットワーク構造の生成を促しているのが、ほかならぬASEANだということだ。構造の重点を東南アジアに据えたその生成発展は、東アジアの地域ブロックというより、個々の首脳を結節点に広がる国家のネットワークといった方がふさわしい。

 今後注目すべきなのは、来年のASEAN議長国がインドネシアであることだ。本来、議長国の順番はブルネイだったが、インドネシアに交代した。2013年にAPECの議長国がインドネシアに回ってくるのが一つの理由だが、世界第4の人口大国であり、G20のメンバーでもあるインドネシアは、

・・・ログインして読む
(残り:約517文字/本文:約2496文字)