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スーパー堤防と10式戦車の相似性

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 先週事業仕分けで、社会資本整備事業特別会計の「スーパー堤防」がやり玉に挙がった。トレードマークの白い勝負服をまとった蓮舫行政刷新担当大臣は例によって首に青筋を立てて厳しい口調で追及を行い、結果「スーパー堤防」廃止と判定された。

「スーパー堤防」は200年に一度あるかないかの大水害に備えるとされているが、完成までに400年、費用は12兆円はかかると言われてきた。無論完成する頃我々は誰も生きてはいない。しかも必要年月も費用も概ねまともな積算は為されていなかった。つまりいつになったら完成するのか、費用がいくらかかるのかは不明だったのだ。廃止は当然の判断だ。

「スーパー堤防」に似たようなものは他にもある。防衛省の装備、即ち兵器の調達がそれだ。防衛装備の調達はおおむね調達数量、調達期間、予算総額は未定のまま国会が承認してしまうのだ(各幕僚監部で内々に調達数の見積もりはしているが議会が承認している数字ではない)。総額でいくら必要なのか、いつまでに調達が終わるかわからないのだ。例えるならば空港の建設計画が決まっていないのに、まずは滑走路を200メートル造りましょうと建設を始めてしまうようなものだ。「スーパー堤防」と同じである。

 普通の国ではまずどんな戦闘機や戦車を調達するかを決め、それをどの程度の期間で何機(輛)調達するかを明らかにした上で、総予算の金額が出される。これが議会で審議され、調達が決定されれば、サプライヤーと契約が行われる(その後、諸処の事情で調達数が変更になることはあるが)。防衛省は単年度予算だから仕方ないというが、大抵の国も単年度予算である。

 特に問題なのは調達期間である。例えば中国空軍の増強が著しい、5年後に空自の航空優勢が覆りそうだ、だから新型戦闘機が二個飛行隊、50機が必要だとしよう。5年先を目処にできるだけ早く調達を行い、これを戦力化する必要がある。ところが防衛省の調達では戦力化が5年先なのか、10年先なのか20年先なのか誰にもわからない。例えば20年かかるならば航空優勢の維持という目的を達せない。また戦闘機の寿命が30年とすると、最後の戦闘機が調達された10年後には一番初めの機体の寿命が尽きる。つまり必要とされる二個飛行隊が戦力として揃うのは10年間しかない。しかも二個飛行隊が揃った頃には既に旧式化している。現在一機100億円の価値がある戦闘機でも20年先になれば旧式化し、その価値は50億円とか30億円に目減りする。ところが調達費は下がらない。つまり50億円とか30億円の価値しかない戦闘機に延々と100億円を払うことになる。自衛隊はこのような旧式兵器に大枚を叩いて調達を続けている。これでは何のための調達か、ということになる。調達自体が目的化している。

 今年から調達が始まった10式戦車の例を見てみよう。そもそも現防衛大綱では戦車の定数は600輛とされている(現在約800輛で、現大綱終了予定時の2015年までに600輛に減らすとしている)。だが、戦車の定数中には現在開発中の戦車砲を搭載した8輪装甲車、「機動戦闘車」も含まれることになっている。筆者が知るところ陸幕は約300輛を調達する計画である。となれば戦車の定数は半分のわずか300輛となる。しかも12月に発表される新大綱では戦車の定数の削減が予想されている。仮に定数が400輛とされるならば、引き算すれば必要な戦車の数はわずか100輛になる。現在の調達単価は約10億円だが、もし100輛のみの調達になれば約600億円の開発費(サブシステム含む)、初度費66億円を案分すれば一輛当たりの調達単価は17億円に近くなる。

 陸自の戦車は90年に採用された90式戦車が340輛ほど、その他は74年に採用された74式である。10式戦車を採用するということは、まだ使える90式戦車を大量に破棄することになる。しかも10式の「セールスポイント」は50トンの90式より6トン軽いだけで、性能的には大同小異だ。

90式(上)を近代化すれば10式(下)の採用は必要なかったのではないか。

 無論戦車の定数は600輛のままかもしれないし、「機動戦闘車」の調達数は減らされるかもしれない。だが余りにも不確定要素が多すぎる。10式戦車の調達には計画など無いと言ってよい。

 本来10式戦車の生産の決定は、大綱が決まってから決断すべきだった。このような背景があったから、陸幕関係者は少なからず、本年度予算で10式戦車の予算はつかないと予想していた。まともな政治家ならばこの予算は通さなかったはずだ。ところが民主党がよく考えずに通してしまった。

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