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武器禁輸緩和(1)国際共同開発の前に国内共同開発を

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 菅直人首相は事実上、武器輸出を全面禁止している「武器輸出三原則等」の見直しを、11月16日の安全保障会議で了承したとされる(27日付産経新聞)。

 12月に予定されている防衛大綱の改訂をめぐる報道で、メディアでは単に「武器輸出三原則見直しが焦点」と報じているが、これは厳密には正しくない。現在の我が国の武器禁輸政策は、1976年の佐藤栄作内閣時代に定められた「武器輸出三原則」に加えて、三木内閣時代の政府統一見解を加えたもので、外務省はこれを「武器輸出三原則等」として、「等」の有無によって区別している(文末の注釈参照)。

 現在、政府が想定しているのは国産兵器を世界に売るのではなく、国際共同開への参画実現である。武器禁輸緩和、共同開発が叫ばれている背景には、いくつかの理由がある。

 まず、近年、兵器の開発費および調達コストが高騰していることが理由の一つだ。一国で負担するには荷が重くなっている。MD(ミサイル防衛)では既に我が国はスタンダードミサイルの共同開発を「例外」として行っているが、これは世界の軍費の約半分を支出してい米国ですらコストの負担が辛くなってきているからだ。

 次に、防衛費の総額が減少傾向にあり、防衛産業を維持するのに充分な国内マーケットが存在しなくなったこともある。また、新兵器の高度化、高額化によって調達数も減ってきているので、量産効果が出にくい。

 ライセンス生産にしても、生産数が減っているので、部品調達コストが折り合わず、内製比率も下がっている。我が国が「ライセンス国産」している海自の掃海ヘリ、MCH101や陸自の戦闘ヘリAH-64Dなどはコンポーネントの多くが輸入であり、実質的には単なるノックダウン生産(主要部品を組み立てるだけの?)に近い。それでいて価格は2倍以上になっている。

 しかも、以前、11月25日付「自衛隊に新しい『玩具』を買う余裕はない」で説明したように、兵器の高度化によって維持・修理費なども高騰しており、これが調達予算を圧迫し、結果として、新兵器のための真水(正味)の調達予算は削減傾向にある。

 これらの事情は他国でも同様で、そのため90年代ぐらいから国際共同開発が進んでいる。

 共同開発はいくつかのメリットがある。まず参加国で開発費を分担できる。例えば一国なら100億円の開発費が必要な場合でも、二国共同開発ならば単純計算で50億円に、4カ国ならば25億円に減らすことができる。万が一、開発に失敗した際の損害も一国で負う必要がない。

 また、多くの生産数が確保できる。一国で戦闘機を100機調達れば、3カ国なら計300機になる。つまり量産効果によって生産単価を下げることができる。さらに、他国の先端技術に触れることができ、技術習得の機会を得ることができる。これも大きなメリットだ。

 特に航空機、そのなかでも戦闘機は開発コストが高騰しており、数千億円から1兆円以上の開発費がかかる。そのため、唯一の超大国である米国ですら、F-35ライトニング2(2はローマ字)では、イギリス、オランダ、イタリアなどとの共同開発を選んでいる。

 だが、国際共同開発にはメリットばかりがあるわけではない。参加各国の運用要求や性能要求、生産分担比率、調達数などの思惑が一致せず、開発期間が伸びたり、妥協の結果として虻蜂取らずな兵器ができたりする可能性がある。また途中で脱退する国が出れば、開発費の分担や調達単価も大きく変わってしまう。

 現に、英独西伊共同開発のユーロファイターでは、当初参加していたフランスが脱退したりするなどして開発着手が遅れた。同様に欧州共同開発の輸送機、エアバスミリタリーA400Mも開発が遅れ、調達コストも上昇している。場合によっては一国で開発したほうが、開発および調達コストが安かった、という結果もありうる。

 だが、それでも国際共同開発をせざるを得ない、というのが世界の軍需産業の現状である。このため共同開発特有のリスクを低減する方策が各国間で模索されている。

 しかし、我が国の場合、戦後、実戦で自国の兵器が使用されたことはない。つまり実戦によるフィードバックがない。また輸出をしていないために、国際的な軍需市場における「市場経済」を経験していない。つまり、価格、品質、使いやすさなどで他国のユーザーの厳しい批判に晒されたことがない。これは、兵器開発において極めて大きなハンディキャップである。

 兵器は、いくらカタログデータが優れていても、実戦に投入された場合に思わぬ欠点が露呈する場合もある。米国やイスラエルの兵器が世界の兵器市場で人気が高いのは、ひとえに実戦を通じてその性能が証明(コンバット・プルーブン)されているからに他ならない。共同開発を行えば、このような他国のノウハウに触れることができ、実戦と市場を経験していない我が国の防衛産業の欠点を補完できる。

 だが、国際共同開発は仲良しクラブではない。

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