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「被災地」新浦安からの一視点――計画停電や統一地方選実施について

鈴木崇弘

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 今回の東日本関東大震災の激甚被害地とは比べものにはならないが、筆者が住む浦安市(特に新浦安地域)は、東京に一番近い被災地といわれている。

 最近はテレビでも、浦安市における液状化の問題が取り上げられているが、問題は実はそれだけにとどまらない。市内(注1)の約4千戸が断水し、約6千戸のガスが停止し、ライフライン復旧のめどが立ちにくい状況になった(注2)。また、浦安市長は、市負担分の被害総額概算だけで734億円(注3)になるだろうと、市のHPにも発表しているなど、被害は大きい。

 筆者も地震以来、上下水道が使えず、最近まで自宅内キャンプ生活、つまり半被災者生活であった。現在も復旧の関係等で断水することもある。市内では、いまだにそのような生活を続けている世帯も多い。そのような世帯の多くは、震災直後はトイレの貯水タンクの水を飲むしか仕方がないような状態だった。その後、海上自衛隊の給水船が来たのを皮切りに、小学校に自衛隊の給水車が来たり、市の給水車がいくつかの学校などで配水を開始したりしているほか、一部の公園などの水道も使えるようになっている。

 多くの市民は、今回の震災のなかでは、激甚被災地の方々の困苦と心痛に心を致しながら、ある程度の制約を耐えなければならないのだと考えている。

 しかし、それにも関わらず、浦安市で生活していると今回に震災に関していくつかの問題を感じることがある。本稿では、そのうち、他地域にも関係することを述べてみたい。

 まず、現在実施中の計画停電に関しては、浦安市に適用されたことに大いに疑問を感じる。浦安市では、すでに数度、計画停電が実施されている。夜の真っ暗なJR新浦安駅周辺は出歩く人もほとんどなく、男性でも一人歩きがこわい状態である。また、道路や歩道は、地震による揺れや液状化現象等でできた地盤沈下による陥没・隆起・クラックなどの損傷が激しく、水たまりなどもでき、日中でも歩くのが難しい状態にあり、電灯のあかりがない場所で転んだり負傷したりする危険性も生まれている。

 また、先に述べたようにトイレの排水も許されないため、高齢者、障害者など「災害弱者」の方にとっては、暗闇の中、屋外仮設トイレを使うなどの相当の負担や危険が必要だった。さらに、新浦安地区には高層のマンションも多く、計画停電でエレベーターが使えないなどの多大なる制約が生じ、生活上大きな支障をきたした。

 ここで、市内の何人かの方々からの生の情報を提供しておきたいと思う。

(1)市全体にかかわる情報

「友人に車椅子利用者がおり、下水道の復旧のめどが立たない状況の中で、大変な生活を余儀なくされています。やはり今、最大の問題は計画停電だと思います。飲み水、お風呂、トイレの問題に加え、停電までもとなると、エレベーターが止まる等、先が見えない状況の中、精神的に相当の負担があるのではないでしょうか。(中略)

 ○計画停電:市民感情として大変な不満が市に寄せられています。ほぼ無傷な江戸川区を始めとした23区はなぜ行わないのか。県内でも松戸市周辺は一度もなく、不公平ではないか。電気以外のライフラインが復旧していない被災地でなぜ停電するのか。

 ○下水道:現時点でも復旧の目処が立たず、特に問題が大きいです。「本管」のバイパス復旧(ビニール製で、むき出し状態になっている箇所もあります)を中心に現在、作業が進んでいます。しかし、マンション内や宅内への「子管」を復旧するとなると最悪で数カ月かかる場合もあるようです。ある程度流してみないと破損状態がわからないというのが実情です。市民のトイレに対する不満は非常に高くなっています。

 ○健康被害:傾いてしまった戸建て住宅が大変多く(現在調査中)、高齢者を中心に体調不良を訴える人が多くなっています」

(2)障害児をもつ母親からの情報

「浦安市に住む肢体不自由の障害児を持つ母親です。うちは先日まで水道が使えない状態で、現在も下水はトイレットペーパーなどは流せない状態です。

 当初計画停電は行われない予定でしたが、大規模停電の恐れがあるため急遽、実施されました。その日は給水所に並んでから、何日かお風呂に入れない状態でしたので、せめて洗髪だけでもと思い、障害児を受け入れてくれる散髪屋に行き、久しぶりに洗髪をして家に戻ると計画停電になっており、マンションのエレベーターが使えない状態でした。車椅子から子供を下ろし、抱っこして6階まで上がり、車椅子と給水してきたお水はいったん車へ戻し、停電終了後に運びました。

 新浦安は高層マンションも多く、車椅子で移動するしかない大きなお子さんであれば、大変ご苦労されていると思います。また水道が使えない地区でロウソクなどを使用した際の火災も心配です。

 東北地方の方のことを考えれば節電も我慢出来ます。しかし、計画停電の方法をもう少し考えていただけないかと思います。各家庭の使用量の制限が出来れば、個々で何に電力を使うか選択することも出来ます。今後長期化するのであれば、信号、病院、治安などを優先して安全に暮らせるような停電方法の検討をお願いいたします」

(3)独居老人に関する情報

「今回の地震で、わが団地の独居高齢者の世話が気になりました。私(70歳)もその一人ですが、水は空の2リットルペットボトルを2本もって、団地内の給水施設に上限の4リットルをもらいに行きました。3日目からは近くの小学校へ。制限はなくなっていましたが、運べる量はやはり小脇に2リットルのボトルを1本ずつ抱えた量です。社会福祉協議会のボランティアが毎日、独居老人には1リットルの水を配っていましたが……足りません。

 情報に関して言えば、近所のホテルがお風呂を有料で提供しましたが、浦安TVニュースでは詳細な内容がなく、市のホームページの災害ニュースでしかわからないことが多く、団地の高齢者はほとんど知らなかったと思います。プリントアウトして、2~3の知人には教えました。

 おなじく、高齢者は買い物にもまったく不自由していましたし、道路事情の問題は今も残っています。老人にも使い勝手のいい、宅配・清算まで出来るIT機器を導入するのが今後の課題だと思っております」

 本稿でいいたいことは、3つある。まずは、あまり知られていない浦安市の被災状況を伝えること。そして、それを通じて、計画停電の問題性と今後の教訓を伝えること、および選挙の課題に関することである。後者は後述する。

 今回の震災における計画停電では、東京23区(一部は実施されている)や浦安市の近くの市川市など、ほとんど被災を受けていないのに停電が実施されない地域も多く、浦安市内では不公平感が高まっていた。

 浦安市の松崎秀樹市長が資源エネルギー庁にかけあったり、森田健作千葉県知事が浦安市などを計画停電から除くように申し出たりしたが、事態に変化はなかった。また、同じく千葉県内で被災した旭市の計画停電の際には東京電力が謝罪したが、浦安市に対しては謝罪さえなかった。しかし、計画停電の状態にあった時も、多くの市民は、被災しながら都内に通勤していた(注4)。

 計画停電が、いかに地域の現状やニーズに合わないもので、単なる机上の空論であるかということは、これまで述べてきた浦安市の状況からも明確に理解できよう(注5)。まさに、戦時中のような上からの一方的な物資の配給制度に近いといえるかもしれない。その後、浦安市が災害救助法の適応を受け、被害の大きな地域等は計画停電実施を除外されることになったので、今後、状況は改善されることになった。しかし、そのことは、東電のやり方が、まさに現実を踏まえておらず、実情にそぐわなかったことを示しているといえる。計画停電の今後の実施や将来に実施する際の教訓にしてほしい。

 現在の計画停電は、広域の停電をできるだけ回避したいためでもあろうが、前日か数時間前にその実施あるいは不実施が決まることも珍しくない。これでは、各家庭も、企業や商店・飲食店なども計画的に生活や生産・営業活動を営めず、それこそ計画が立てられない。このため、ペットボトルの水をはじめ必要物資の生産にも支障がでてきているようだ。社会全体の活動や経済活動へのダメージは想像以上に大きいと思われる。「計画停電」といいながら、実は社会を混乱させ、人々の暮らしや生産活動の計画を立てさせないものになっており、まさに「非計画停電」になっている。

 岡田克也民主党幹事長は、大口電力需要家の送電カットについて発言しているようだが、その際にも価格メカニズムを活用して使用量に応じた電気料金の値上げ(電力消費税、償料等の名目で上乗せ)で需要を調整した方が、企業等にとっても生産の計画がたてやすいはずだ(注6)。

 被災地浦安市の視点から、参考になると思われるもう一つの論点がある。それは、4月の統一地方選における浦安市の市議会議員選挙の問題である。

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