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リビア空爆と「テロとの戦い」――ヨーロッパは中東の変動にどう向き合うか

川村陶子

川村陶子 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

 ビンラディン容疑者殺害により、米国の「対テロ戦争」はひとつの山を越えた感があるが、ホームグロウン・テロの脅威が高まるヨーロッパでは、むしろこれからが「テロとの戦い」の山場になりそうだ。不満を抱えたムスリム系の若者が暴力に走ることを防げるかどうかは、ヨーロッパ諸国の「ムスリムとの向き合い方」が、国内・対外にかかわらず、どのように展開するかにかかっている。現在中東アラブ諸国で進行中の政治変動への対応は、その試金石である。

 震災のショックが日本を覆っていた3月半ば過ぎ、ドイツでは、ヴェスターヴェレ外相が「戦後ドイツ外交最大の失敗」を非難するメディアの攻撃にさらされていた。その失敗とは、リビア上空に飛行禁止区域を定め、文民保護のために必要なあらゆる措置を容認する国連安全保障理事会決議1973に対して、安保理非常任理事国のドイツ代表が棄権票を投じたことである。

 西ドイツ建国以来、ドイツは米国を中心とする西側同盟の結束を重視すること、突出行動で西ヨーロッパ近隣諸国を刺激しないことを、外交・安全保障の絶対原則としてきた。しかし、今回の安保理決議1973については、英仏が先導する決議案に米国が賛成したのを尻目に棄権へと回った。

多国籍軍の空爆により大破したカダフィ政府軍の戦車=4月19日、リビアのベンガジ近郊
 ドイツのヴィッティヒ国連代表は、投票にあたって、リビアへ軍事力を行使することによってむしろ犠牲者が増え、紛争地域が拡大する危険性があるとコメントした。しかし、メディアや外交筋、国連関係者は、ドイツの棄権は3月末の地方選挙をにらんだ決定であったとの見解で一致していた。

 ヴェスターヴェレ外相が当時党首を務めていた自由民主党(FDP)は選挙戦で劣勢が伝えられており、外国への軍隊派遣に消極的な有権者の心情を汲んで棄権を選んだというのである(ちなみに実際の選挙では原子力政策が中心的争点となり、原発の早期廃止に消極的なFDPは惨敗、ヴェスターヴェレは党首退任を余儀なくされた)。

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