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[3]震災後のリニア建設を考える(その1)

聞き手=WEBRONZA編集部

原武史

東日本各地の鉄道に大きな被害をもたらした大震災。三陸鉄道の復旧に傾注する原武史さんの連続インタビュー第3回では、震災後の日本における鉄道の役割を伺った。最も大きな話題は、JR東海が建設を表明しているリニア(中央新幹線)構想。原さんは「21世紀の日本を左右しかねない」とリニア計画の実現性、収益性を懸念する。震災報道に隠れた一大国家プロジェクトの危うさを検証する。(聞き手=編集部)

                                                         

原武史(はら・たけし) 1962年、東京都生まれ。明治学院大学教授。専攻は日本政治思想史。著書に『大正天皇』(朝日選書、毎日出版文化賞)、『「民都」大阪対「帝都」東京――思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ、サントリー学芸賞)、『滝山コミューン 一九七四』(講談社文庫、講談社ノンフィクション賞)、『昭和天皇』(岩波新書、司馬遼太郎賞)、『鉄道ひとつばなし』『同2』(講談社現代新書)、『「鉄学」概論――車窓から眺める日本近現代史』(新潮文庫)など。最新刊に『鉄道ひとつばなし3』(講談社現代新書)がある。

――原先生は4月27日に三陸鉄道の被災地を訪れました。夏にまた応援するツアーを予定されているそうですね。

 9月半ばになりそうです。ゼミの学生に、個人の資格で参加するメディア関係者が加わり、1台28人乗りのバスを貸し切るという大がかりなことになりそうです。

――現地の様子を取材して、関係者に話を聞いて、最終的にはやはり切符を買う。

 切符は買いますよ。当たり前です(笑い)。応援に行くわけですから、それが基本です。ただし個々人が何枚買うかは分かりません。5枚かもしれないし10枚かもしれない。

――私もご一緒していいですか?

 どうぞ、どうぞ。朝日新聞の記者も1人、既に予約が入っています。

――弊社はどうも「鉄分が高い」(鉄道好きが多い)ようです。

 震災から間もなく4カ月になりますが、三陸鉄道の復旧に国の予算がつくかどうか、予断を許さない状況です。2次補正に入るか、3次にずれ込むか。財務省の査定など様々なハードルが控えています。100億円から最大180億円と金額は見えているわけで、その一部を先行して予算化するだけでも希望が持てるのですが。結局、財務省の官僚ではない私たちにできるのは現地に足を運んで切符を買って話題づくりをすることぐらい。忘れない、ということです。忘却されてしまわないように定期的に行く。

――最近も被災地へのボランティアの人数が、阪神・淡路大震災よりも少ない、およそ3分の1だという報道がありました。東日本大震災の地震発生から3カ月で、被災地3県で活動したボランティアは、のべ約42万人。阪神の時は同時期に約117万人が現地に足を運んだそうです。交通の便や宿泊施設の問題、ボランティアの敷居が上がったことなど理由はいくつかあると思いますが、被災地への関心が風化している恐れがあります。観光気分の気軽なボランティアは当初、批判の対象とされましたが、「観光に行くだけで支援になる」という指摘も増えています。被災地のローカル鉄道を支援する場合、何が支援になるのでしょうか。

 それはやはり乗りに行くということでしょう。大げさなことではなくて、ただ単に復旧している区間の鉄道に乗ればいい。観光であれ現地で活動するボランティアであれ、鉄道はあくまで交通手段、移動の手段ですから、乗ること、1枚でも多く切符を買うことが支援になる。三陸鉄道の復旧を望むなら、まず現地に足を運んで宮古~小本間ないし陸中野田~久慈間に乗る。片道でも往復でもいいし、何往復してもいいから乗る。車窓から景色を眺める。駅の売店で三陸鉄道が販売している土産物を買う。こうしたことに尽きると思います。

――これからも折に触れて三陸の話を伺いたいと思いますが、震災後も、JR東海によるリニア(磁気浮上式高速鉄道)建設の話が前に進んでいます。しかし、被災地や原発事故にかんする報道や言論に隠れてしまい、リニアという一代国家プロジェクトが日本にとって本当に必要なものかどうか、という議論が置き去りにされている。原先生は、そのことを非常に危惧されているとお聞きしています。

 その通りで、リニア建設は

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