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脱「風呂釜」は、時間との闘い――動き出した橋下・大阪市政

菅沼栄一郎 朝日新聞記者(地域報道部)

 75万票を集めて圧勝した橋下徹・新大阪市長がこの先も高い支持率で突進を続けられるかは、時間との闘いになるように見える。彼が掲げたマニフェストはいずれも実現に時間がかかり、心変わりの早い市民のハシモトフィーバーが冷める前に果実を示す必要があるからだ。

 大阪でこんな話を聞いた。

 「あの人は『風呂屋の釜』じゃないからね」。橋下徹・大阪市長のことだ。

 「風呂屋の釜=湯だけ=ゆーだけ=言うだけ」

 転じて、大阪あたりでは「口だけ」政治家の代名詞になっているらしい。

 府知事の4年足らずの間、財政再建では実績を残したものの府庁移転は結果的に空振りに終わるなど浮き沈みはあったが、「ゆーだけではない」との期待感は残した。

消防出初め式で敬礼する橋下大阪市長=1月6日、大阪市住之江区

 しかし、自ら府知事を辞して切り開いたセカンドステージでは、立ち上がりで、最高裁が君が代の起立斉唱を義務づける条例に強烈な牽制球を見舞うなど、脱「風呂釜」=公約実現への航海は、波高しとなりそうな予感もある。

 府知事としては大胆な財政再建を断行して1100億円の収支を改善、2年目に単年度黒字を達成した。大阪市でも同様に、人件費120億円削減をぶちあげるなど財政再建を目指している。

 ただし、40年ぶりの高い投票率を記録した大阪市民はまた醒めるのも早い。今のところ、大阪都構想の前段としての「24人の区長公募」に海外在住も含め1000人を超える応募者が集まって選考がパンク状態になるなど賑やかな話題はあるが、この春にも断行しようと目論んでいた「地下鉄の初乗り20円値下げ」は、乗り入れ私鉄との調整などでもたつき、早くても一年先になりそう。

 「ハシモトさん、ようやった」と実感できる「果実」の提示が遅れれば、またフロヤノカマか?ということにもなりかねず、高い支持率維持には黄信号がともりかねない。政権交代マニフェストをほとんど実現できないまま、すでに2人の首相が「年替わり」した民主党は言うに及ばず、一時は36万票のリコール署名に盛り上がった名古屋市民も、河村たかし市長が「減税」実現に手間取っているうちに熱気が冷めてしまったことは記憶に新しい。

 橋下氏が市長選で掲げた4項目のマニフェスト=大阪都構想、職員・教育基本条例、脱原発依存=はいずれもが、成果が出るまでには時間がかかる。

 大阪都構想は、区長を東京都並みに「公選」にすることが目玉だが、国会による地方自治法の改正などの手続きが必要で、早くても実現は4年後になる。行政の決定権が住民の身近になることは民主主義に有効だが、各区に議会ができれば、議員歳費にカネがかかるし、レベルの低い議員が増えても職員の仕事のじゃまになるだけ、との反論もある。議員の質向上や住民参加が同時に進行しないと、大阪都が「都民」に幸せを運んでくるかどうか保証の限りではない。

 職員・教育基本条例は、橋下与党である大阪維新の会(33議席)が大阪市議会(定数86)では少数で、公明党(19議席)などの協力を得なければ、成立はおぼつかない。まして、保護者や子どもたちに教育改革の「果実」が実感をもって受け止められるまでには、さらに時間がかかる。原発に依存しないエネルギー社会づくりも長期的な課題だ。

 このため、橋下氏はまずは職員組合や既得権益層をやり玉にあげ、給与や補助金に切り込むことで序盤戦の成果=果実を、市民にアピールしようとしているようだ。4000億円削減を目標に、府市にまたがる二重施設を解消して無駄な経費を洗い出すよう府市統合本部にハッパをかけている。

 例えば、市営地下鉄。

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