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[2]金正恩の「先祖がえり」イメージは逆効果だ

石丸次郎 石丸次郎(ジャーナリスト/アジアプレス)

●時代の変化を待望する民衆

 金正日総書記が死んで、当分の間追悼ムードが続くと思っていたが、北朝鮮当局と官営メディアとの動きは意外に早く「喪明け」したので、少し拍子抜けしている。

 中国やシリアなどの友好国からは、早くも2011年末から金正恩氏に対する「祝電」まで受け取っているし(北朝鮮当局が要請したものと思われる。<注>参照)、1月8日には正恩氏がにこやかにタンク部隊を視察したり、馬に乗って駆けるシーンなどの記録映画を朝鮮中央テレビで放映し、住民を動員した集会でも見せている。精力的に現地視察しているような報道も多い。それもたくさんの写真つきだ(1月19日付朝鮮中央通信は軍部隊訪問で写真を22枚使った)。

 わずか、ひと月前の慟哭はなんだったのか?と思いたくなる転換ぶりだ。

 正恩氏の露出が盛んなのは、えらくインスタントに「人民軍最高司令官」「国の最高指導者」になってしまったこの若者の、国内外での認知度・好感度アップと、体制移行がスムーズに進んでいて国民はそれを受けて入れているというイメージ作りが狙いだろう。

故・金正日総書記と金正恩氏の写真をあしらった切手シート(朝鮮鮮中央通信の配信)

 さて、この正恩氏が、2010年9月に初めて姿を現した時、多くの人が驚きを感じたのは、容貌が故金日成主席の模倣そのものだったことだ。

 また、金総書記急死後の一連の追悼行事の段取りは、ほとんどが1994年7月の金日成死去時のコピーだった。そこで喪主として動いた正恩氏は、17年前に喪主だった父と同じように動いたが、その姿はさらに祖父を意識したものであった。黒コートに手袋姿は金日成の冬のトレードマークであった。

 年明けの官営メディアは、さらに露骨に祖父・父との関連をアピールしている。

 「思想も領導も風貌も金正日将軍様そのままであられる最高司令官」(在日朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」朝鮮語版1月13日付)

 というわけだ。

 一連の金総書記の死に伴う大イベントの進行過程と、まるで「金日成コスプレ」である正恩氏の姿から、ポスト金正日体制が示したいメッセージとイメージ戦略が強烈に伝わってくる。

 すなわち、

 「体制はこれまでどおりの道を進み変わらない、変えられない」

 である。

 2003年に中国に脱北して来た知識人の忘れられない言葉がある。

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