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防衛省・自衛隊にとっての「政治的中立」とは?

谷田邦一 ジャーナリスト、シンクタンク研究員

●「全国の防衛局長経験者はみんな処分されなければなりませんよ」

 「本当に馬鹿げている(indeed silly)。日本には、もっと重要な安全保障問題があるじゃないか」

 知りあいの在日米軍幹部が少し前に、こんなメールを筆者に送ってよこした。沖縄防衛局の真部朗局長が今年1月、職員に宜野湾市の投票を呼びかける「講話」をしていた問題をめぐり、日本のメディアが空騒ぎしていることへの率直な感想だ。軍拡や挑発を続ける中国、北朝鮮の脅威を目前に、「そんなことをしている場合か」と、この幹部はあきれ返っていた。

 普天間移設をめぐる沖縄県と日本政府の確執は、時間とともにエスカレートするばかりだ。北東アジアの安定を命がけで守っている在日米軍の指揮官たちが、「いい加減にしてほしい」と苛立つ気持ちはよくわかる。

 しかし、国際政治の教科書とはまるっきり違う、いびつな日本の政治的現実は今も続く。今回の問題は、再び日本の防衛問題の難しさを見せつけた。私たちはどのように考えればいいのか。若干の考察をしてみたい。

 発端は、衆院予算委員会での共産党議員の暴露だった。突然ふってわいた不祥事のように映るが、実は防衛省・自衛隊の出先機関では、選挙のたびに組織的な「指導」が行われるのは日常の風景に近かった。国政・地方にかかわらず、つい10年、15年前には、沖縄に限らず、どの駐屯地や基地、地方窓口でもしばしば見かけられたものだ。

 自衛隊は、全国津々浦々に根を張る約24万人ものマンモス公務員集団である。しかも防衛関連行政は、何かと国政や地方政治と利害が深くからまっている。大きな基地や駐屯地になれば数千人規模の有権者がおり、選挙候補者にとっては魅力的な大票田と映る。部隊の側にとっても、地域の理解を得るためにOBやシンパを地方議員や国会議員に当選させることは利益にかなう。面倒なトラブルは政治力で解決した方が、ずっと楽だからだ。おのずと「塀」の内外の暗黙の協力関係が成立してきた。

 自民党政権時代には、連隊長や基地司令の「講話」の時間に、OBの候補者らが施設内に招かれ堂々と支持を訴えることさえ珍しくなかった。一事が万事、命令・号令の組織だから、わかりやすい。

 衆参両院選挙などの国政レベルでも、露骨な運動が続いている。現役時は「政治的中立」に口うるさかった事務次官や陸海空の幕僚長らが、OBになった途端、陰の選挙参謀として、現役勢に組織的に働きかけているのは公然の事実である。この組織ほど、巧妙に政治的に動いてきた集団はほかにないといっても過言ではないだろう。

 むろん、こうしたあり方を肯定しているわけでない。民主主義の根幹である文民統制とかかわる問題であり、軍事組織である自衛隊に政治的中立を求めるのは当然のことだ。法令もきちんと整備されている。自衛隊法は61条で自衛隊員の「政治的行為の制限」を規定。同法の施行令86条は、「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、又はこれに反対すること」などを政治的行為とみなし、違反すれば3年以下の懲役などが課せられる。

 とはいえ「税金泥棒」などと長く社会から迫害されてきた彼らが、自分たちの処遇改善や地位名誉の確保のために、なりふりかわまず活発な政治活動を重ねてきたことも事実だ。

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