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在日米軍再編見直しは日米の窮余の一策

谷田邦一 ジャーナリスト、シンクタンク研究員

 「米、普天間の辺野古移設を断念へ」

 沖縄タイムスが2月4日付で報じた一面トップの「スクープ」には、驚くような大見出しが躍っている。米国政府が、あたかも普天間飛行場の県内移設をあきらめたかのような報じ方だ。その前日には、金融経済情報で知られる米国のブルームバーグの電子版が、日米間で静かに進められていた在沖縄海兵隊のグアム移転見直しの概要をすっぱ抜いた。外務・防衛両省の高官らは後者の報道には敬意を表し、沖縄紙については「明らかな誤報」と切って捨てた。

 だが、はたして「誤報」とまで言い切れるのか。確かに米政府は声明や文書を通じ、日米両政府は辺野古移転案を引き続き推進する姿勢を強調している。ただ2011年5月、ジョン・マケインら3人の有力な米上院議員が「カネがかかりすぎる」と、海兵隊員のグアム移転や普天間飛行場の移設などに難色を示して以来、国務・国防両省は押されっぱなしだ。

軍用機が並ぶ米軍普天間飛行場=2011年6月、沖縄県宜野湾市

 その妥協の産物が、今回の結論であることは否定しようがない。議会が納得せず、なお「それでも不十分だ」と突っぱねれば、予算がつかないまま事業は頓挫することになる。つまり、沖縄の報道は必然的に大スクープに転じるというわけだ。

 簡単におさらいしてみよう。

 ブルームバーグ報道を受けて、玄葉光一郎外相は同3日夜、緊急記者会見した。オバマ大統領によるアジア太平洋重視の新たな国防戦略や国防費削減の動きを受け、クリントン国務長官と米軍再編の見直しを協議してきたことを認めた。

 その中心は、2006年に日米合意した約8000人の海兵隊員とその家族約9000人のグアム移転をめぐる再検討だ。日米両政府は同8日、これまでリンクさせてきたグアムへの海兵隊移転と普天間移設とを切り離すと正式に発表。その際、出された基本計画によると、海兵隊員の一部移転や米軍嘉手納基地以南の米軍5施設の返還を先行させて進め、今年6月にも予定されていた普天間飛行場の県内移設にからむ埋め立て申請を先送りすることも決まった。

 外務省高官は、日米合意の背景についてこう説明する。「米側のイニシアティブや時定表に沿って日本側が努力しているというイメージは、両国にとってよくない。沖縄の地元の意向に、もっとていねいに配慮しようという機運が両国の間で自然に生まれた」

 しかし、これまで沖縄を散々こけにしながら、思いやりに満ちた方針転換と言われても、にわかには信じがたい。ひと言で表現すれば、日米両政府の「メンツを保つための窮余の一策」というに尽きるだろう。

 オバマ政権は米議会から大幅な国防費削減を迫られている。その一方で、中国の脅威に対応できる新たなアジア太平洋戦略を実現させなければならない。日本政府とも繰り返し閣僚合意を重ねてきた重要案件だ。ならば議会の要望を受け入れ、現実的な妥協策を探るしかない。そんな構図が真相に近いのではないか。

 オバマ大統領は1月に新国防戦略「21世紀の国防の優先事項」を発表した。アジア太平洋を重視する戦略のコア部分は、グアムを「戦略的なハブ」と位置づけることにある。政治的要因の影響を受けやすい海外駐留と違い、自国領土だし、東シナ海と南シナ海、さらにはインド洋へとつながる広大な海域の要衝にもなりうる位置にある。また中国の中距離弾道ミサイルの発射基地から離れていること、米軍の艦艇や航空機が冷戦時代に比べ大幅に行動半径や機動性を拡大したことも、重視するに至った要因だろう。

 アジア・太平洋地域は地球のほぼ半分にあたるほど広い。そこでの軍事戦略の中心は、戦闘部隊をできるだけ潜在的な紛争地近くにまで前進させて配備する前方展開戦略にある。危機に即応できるだけでなく、平時には安定のための抑止力を生むからだ。冷戦時代に旧ソ連を封じ込める目的で編み出された発想は、冷戦終結から20年余を経た今も形を変えて生きている。

 米政府は、日米合意から6年にわたり「普天間移設とグアム移転はパッケージ」と固執してきた。しかし、とうとうしびれを切らせてグアムへの海兵隊移転を先行させる腹をくくった。

 いつごろ見直しに転じたのだろう。

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