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気にかかるイスラエルの原子炉の停止

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 ロンドンで発行されている独立系のアラビア語の新聞『クドス・アラビ(アラブのエルサレム)』が3月21日付けで報じたところによると、イスラエルがナハルソレク(アラビア語地名ショーク)にある原子炉の停止を発表した。ナハルソレクはエルサレムから西に20キロあたりにあり、1950年代にアメリカの援助で原子炉の建設が始まり、1960年に運転を開始している。

 イスラエルの説明では、この原子炉は研究用で国際原子力機関の査察も受けてきた。停止の理由としては、施設の老朽化などをイスラエルは指摘している。この発表は3月26日と27日に韓国のソウルで開かれた核安全保障サミットに先手を打つ形で行われた。核不拡散条約に署名しておらず、しかも核兵器を開発し実戦配備しているイスラエルに対する批判を避ける目的があったものと思われる。

 また昨年の日本での原発事故を受けて、イスラエル政府は原子力発電に進まない方針を明らかにしており、同原子炉の停止は、この方針にも沿う決断である。背景にあるのは、天然ガスの発見である。地中海のイスラエルの沖合での巨大な天然ガス田の発見が続き、同国が天然ガスの輸出国になる可能性さえ浮上してきている。

 したがって原子力発電に依存する必要は、将来とも生じないとの計算であろう。もっともガス田の領有権をめぐるレバノンとの紛争が起きているのだが。

 さてクドス・アラビ紙は原子炉の停止を他の側面に焦点を当てて解説している。停止の真の理由は、パレスチナの抵抗組織によるロケット攻撃を懸念しているからである。また同紙によると、今年の初めに、イスラエルで非通常兵器によるテロ攻撃を受けた場合を想定した訓練が実施された。訓練にはイスラエルの複数の病院が参加した。病院では患者が非通常兵器により被曝したとの想定で検査と治療が行われた。

 気になるのは、イスラエルがすでに南部の都市

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