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金正恩への権力継承は始まったばかり――避けられぬ「操り人形」化

石丸次郎

石丸次郎 石丸次郎(ジャーナリスト/アジアプレス)

 平壌で盛大に開かれていた4月の「宴」は終わった。

 金日成生誕100周年に合わせて、新体制を披露するという大きな目的があったこの「宴」は、北朝鮮史上最大級のものになったと思われる。

 「宴」の主役である金正恩氏は、朝鮮労働党代表者会で第一書記に、最高人民会議で、国の最高指導機関である国防委員会の第一委員長に就いた。昨年末の金正日氏死去直後に、朝鮮人民軍最高司令官になっていたので、北朝鮮の軍・党・国家の最高位に就いたわけだが、多くのメディアや専門家は、これをもって金正恩氏が「世襲後継」を完成させたとしたが、はたしてそうだろうか。

 北朝鮮において、地位の継承と、絶対権力の掌握はイコールではないことを知っておかなければならない。筆者は、金正恩氏への権力継承作業は、今やっと始まったばかりだと考えている。

 北朝鮮は「唯一指導体系」の国だ。国の指導者はただ一人しか存在し得ず、あらゆる政策の最終決定権を「唯一人の指導者」が持つというシステムである。これは金正日氏が、故金日成主席の代に完成させた。

朝鮮労働党代表者会で代表者たちに答礼する金正恩第1書記(朝鮮中央通信の配信)

 「唯一人の指導者」の思想を絶対化、信条化し、提示される<方針>を無条件に執行することが、全国民に求められる。まさに、真正独裁、絶対独裁である。

 この絶対権力は、党や軍、国家のトップに就くことで手に入るものではない。金正日氏は、金日成主席の死後3年以上、党と国家のトップに就かなかったが、絶対権力者の立場は微塵も揺るがなかった。先立つ20年間に権力集中作業を重ね、故金日成主席の「唯一の指導者」の「唯一の代理人」になっていたからだ。

 金正日氏に対抗する政治勢力は存在すらできなかったし、体制内には、政治的立場や思想の異なる強硬派も穏健派もありえなかった。金正日氏の権力に挑戦したり、従わない傾向は、芽を出した瞬間に根こそぎにされてきた。「金正日派」しか存在し得ないのが「唯一指導体系」なのである。

 金正恩氏への世襲後継を決めた金正日氏が目指したのは、党・軍・国家のトップの地位に息子を就けることではなく、自分の「唯一の代理人」にすることであった。つまり「金正恩による唯一指導体系」というシステムの確立である。公式的な最高位に就くのは形式に過ぎないのだ。

 だが、最高位に就いた金正恩氏は、経験も能力もまったく十分でない「若造」に過ぎない。そのため、金正日氏は、一族と側近が金正恩氏を補佐する、過渡的な集団指導体制作りに着手していたが、道半ばで死んだ。

 4月の「宴」では、党と国家中枢の幹部の主な人事が公表されたが、彼らが核心補佐集団であることはいうまでもない。金正恩氏は、しばらくは多くの分野で補佐集団のアドバイスに基づいて行動せざるを得ない。

 読者諸氏はもう気づかれたと思う。金正恩新体制は

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