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日本のODAに中国が警戒心――「戦略的」ODAの活用は文字通り「戦略的」に

小谷哲男

小谷哲男 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

 日米首脳会談の直前に行われた日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、普天間移設と在沖海兵隊のグアム移駐の切り離し、それにともなう費用負担、嘉手納以南の基地の返還などに注目が集まった。

 しかし、他にも重要なポイントが含まれていた。地域の安定のために日本が政府開発援助(ODA)の戦略的な活用を行うという一節である。中国政府関係者は、すでに日本によるODAの戦略的活用に警戒心を抱いている。

 2プラス2の共同宣言には、日米が地域の安定促進のために協力することが重要であることを確認し、アメリカ政府は訓練や演習を通じてこの地域の同盟国及びパートナー国がその能力を構築することを支援し、日本政府は沿岸国への巡視船の提供といったODAの戦略的な活用を含む様々な措置をとると書かれている。この背景には、南シナ海で強硬な姿勢を見せる中国に対し、フィリピンやベトナム、マレーシアなどの沿岸国の能力を向上させて、バランスを取ろうという日米の意図がみえる。

 すでに、日本政府はフィリピンへの巡視船と通信システムの提供、マレーシアへの暗視装置搭載巡視船の提供を検討している。ベトナムに対してもニーズを確認して検討するという。海上自衛隊は世界で唯一外洋での離着水が可能な水陸両用飛行艇を保有しているが、これにはブルネイやマレーシア、インド、ベトナムが強い関心を示している。

 日本は、2006年にインドネシアに対して巡視船3隻をODAで無償供与した。しかし、当時は巡視船が「武器」に当たるとして、事実上すべての武器輸出を禁じている武器輸出三原則の例外措置として実施した。

2010年6月にインドネシア当局が撮影した、ナトゥナ諸島沖の中国の漁業監視船「中国漁政311」

 だが、2011年12月の内閣官房長官談話によって新たな「防衛装備品等の海外移転に関する基準」が示され、平和貢献・国際協力に伴う防衛装備品の海外への移転と、同盟国・友好国との武器の国際共同生産・開発が、目的外使用や第三国移転の厳格な管理が行われることを条件に原則可能となった。

 この新基準により、戦略的ODAの活用の幅が広がったのである。武器輸出三原則の緩和は自民党時代から議論されていたが実現できなかった。それが実現したことは野田政権の成果である。 言うまでもなく、「戦略的」ODAは文字通り戦略的に使わなければならない。中国はすでに日本による戦略的ODAの活用に強い警戒感を示している。ある中国海軍の高官は、中国がフィリピンと南シナ海のスカボロ環礁でにらみ合いを続けている状況で、日本がフィリピンへの巡視船の提供を発表したことに怒りを隠さなかった。今後、中国が親中派の国会議員や外務官僚も動員してODA供与を止めさせようと外交的圧力を加えてくることも予想される。

 このため、中国とその他の南シナ海沿岸国間の海洋法執行力の歴然とした差を埋めることが日本の国益であることを認識し、強い政治意思を持って戦略的ODA供与に取り組まなくてはならない。

 次に、

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