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民主党分裂と原発問題(下)――小沢新党は二大政党への挑戦者となりうるか?

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

 小沢一郎氏は、離党届の提出後、新党に掲げる政策について、消費税増税の先行反対に加えて「原発の問題も大きな国民の関心事だ」と記者団に述べたという。それは確かなことだが、問題はそれに対してどのような政策を掲げるか、ということだろう。

 大飯原発の再稼働について、野田佳彦首相は、夏期のピーク時の電力が不足するという理由で再稼働の必要性を説明しただけではなく、橋下徹大阪市長らが提起したように再稼働を夏季に限定するという案に対しては、経済的理由をあげて「夏場限定の再稼働では国民生活は守れない」とした。

 ここにも一理はある。しかし、これに対して、“暫定安全基準で十分なのか。免震棟や津波対策などの安全対策がなされていないが、それでよいのだろうか。地下の破砕帯が近くの活断層と連動する危険がある”などの問題が指摘されている。この対立にはまさしく道徳的ジレンマが存在する。小沢新党はこれらの問題をどう考えるのだろうか。そして、続く他の原発再稼働に賛成なのかどうか。

 また政府は、「(1)原発をできるだけ早くゼロにする(2030年には0%)、(2)40年運転した原発を廃炉にする(2030年には15%)、(3)原発依存度を減らすが使い続ける(2030年には20-25%)」という3つの選択肢を示して、熟議型世論調査の手法も導入した上で8月末までに決定しようとしている。

 私は原発問題やエネルギー問題について決める際に熟議民主主義の方式を活用することを提案してきた(『対話型講義 原発と正義』光文社新書)から、この方法の導入自体は望ましいことである。ただ、期間があまりにも短いなどの問題があり、本来の熟議が実現できるかどうかは危惧される。

 菅直人首相(当時)は3・11の後で脱原発という方向を打ち出したが、その姿勢は野田政権になって後退した。それでも野田政権は原則として40年で廃炉という方針を打ち出したから、(2)の政策に近いと思われたが、最近は、自民党の要求によって、原子力規制委員会設置法において、原子力規制委員会の設置後にこれを速やかに再検討するという見直し規定を附則に入れるという修正に合意して成立させた。これについて、小沢新党はどのような政策を主張するのだろうか?

 そして、東電の隠蔽体質や、電力価格値上げなどの電力会社の問題にも多くの人びとが憤っている。電力自由化や発送電分離などの電力改革などを主張するのかどうか。また、経済界の中心に、電力をめぐる政財官の癒着があり、それが原発問題の背景にあると指摘されている。民主党のもともとの理念は、脱官僚と政治主導だった。だから、この癒着に対して、「民主本党」らしく切り込んで癒着を打破する勇気があるのかどうか? 

 さらに、使用済み核燃料の処理方法について、核兵器の材料となるプルトニウムを大量に産み出す核燃料サイクルをどうするのか? 原子力委員会は(2)については再処理・直接処分(地下埋設)の併用が適切としたにもかかわらず、政府は(2)と(3)の場合の処理方法については熟議型世論調査の対象とせず、政府が判断するとした。

 つまり、核燃料サイクルについては、(1)の場合は廃止されるものの、それ以外については熟議型世論調査で人びとの意見を聞く機会をなくしたのである。核燃料サイクルは、六カ所再処理工場にしても、高速増殖炉もんじゅにしても、ほとんど稼働しておらず、これらを中止しても現時点でエネルギーが足りなくなることはない。それにもかかわらず、これらを維持することによって莫大な予算が必要になっているのである。消費税増税に反対して無駄遣いをなくすことを主張する小沢新党は、核燃料サイクル政策の中止を主張するのか、どうか。

 さらに、野田政権は自民党の要求を受け入れて、原子力規制委員会設置法の付則で原子力基本法を改定し「我が国の安全保障に資する」という文言を入れた。この改定は、手続き的に妥当性が疑わしいと同時に、この文言は日本がいざという時には核兵器を持つことができるようにするために原発を維持するという意味に解釈するのが自然と言わざるを得ない。

 つまり、この法律の成立によって、原発再稼働は「潜在的核武装のための原発維持・再稼働」とみなされても止むを得ないことになってしまったのである。これは、戦後の反核・平和国家たる日本という国是を揺るがす大転換である。

 先の「歓迎すべき民主党分裂」で指摘したように、ほとんど審議なしにこのような重要な立法を行ってしまったのは、まさしく二大政党の政策が類似してしまった帰結であり、民主主義の機能低下ないし形骸化を表している。小沢新党は、このような法律改定、さらには「潜在的核武装のための原発」という考え方に対して、どのような政策を主張するのか。

 小沢一郎氏は、次の衆院選について、「オリーブの木みたいな形でやればいい」と周辺に語っているという。「オリーブの木」とは、そもそもはイタリアで1996年に左右の激突の中で、中道左派が選挙において緩やかな連合を形成して、右派連合に勝利した際の名称である。オリーブは、平和や労働の充実の象徴だから、このような呼称が用いられた。

 かつて筆者は、民主党・前原誠司代表時代に、自民党と民主党の二大政党の政策が類似して「(革新右派)二大政党」となってしまうことを危惧して、その他の平和を志向するグループが「オリーブの木」方式によって「平和への結集」を行い、「平和連合」を実現して、新しい中道左派の「第3極」を形成することを提案した(2005年)。 

 このような二大政党になるという危惧が、

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