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「主権回復の日」、東京の政治エリートは沖縄人の反発を過小評価するな

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

 政府は4月28日を「主権回復の日」とし、政府主催の記念式典を開催する。これに対して沖縄が激しい忌避反応を示している。沖縄人の標準的感覚からすれば、「何と無神経な」と開いた口がふさがらない事態だ。しかし、東京の政治エリート(国会議員、官僚)には、なぜ「主権回復の日」制定に沖縄人が忌避反応を示すかがわからないのである。

 東京の政治エリートと沖縄人の認識の乖離が、かつてなく拡大している。この原因を解明するためには、2つの時間概念を区別しなくてはならない。

 古典ギリシア語で時間を表す表現にクロノス(khronos)とカイロス(kairos)がある。クロノスは、日々刻々と流れていく時間だ。年表や時系列表を英語でクロノロジーというが、これはクロノス的な時間だ。これに対して、カイロスは、ある出来事が起きる前と後で、質的な転換が起きるような時間だ。英語では、タイミングと訳されることが多い。

 1952年4月28日にサンフランシスコ平和条約(1951年9月8日に米国サンフランシスコで署名)が発効し、日本が国際法的に主権を回復した出来事は確かにカイロスだ。しかし同時にこの日に、同条約3条に基づいて沖縄、奄美、小笠原は、米国の施政権下に組み入れられた。

 沖縄人にとって「日本の中央政府が沖縄を切り離した日」という意味で4月28日は、カイロスなのである。「主権回復の日」を中央政府が、このタイミングで式典としたことを、沖縄人の大多数は、日本全体のために沖縄を切り捨てることを是認するシグナルと受け止めている。

 もっとも、条約を解釈する専門家集団である外務官僚には、4月28日というカイロスが沖縄人にとって持つ、悲しみ、苛立ち、屈辱感が、わからない。

 筆者は、母が久米島出身で

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