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F-35採用の正当性と防衛当局の当事者意識を疑う(上)――防衛省による「先軍政治」?

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 航空自衛隊は老朽化したF-4EJ戦闘機に変わるFX(次期戦闘機)としてロッキード・マーチン社のF-35を採用した。だが、以前から筆者はこの決定には疑問を呈してきた。

 筆者は去る4月23日のBSフジのプライムニュースの「次期主力戦闘機F-35A 日本が選択した戦略」と題した回に、森本敏前防衛大臣、佐藤正久防衛大臣政務官とともに出演したが、F-35の選択により一層強い疑念を抱いた。

 両氏は全面的にF-35Aの採用、国内生産を是としているが、特に装備調達に関して、時間と予算の概念が希薄であり、筆者にはその主張には大きな問題があったように思えた。

 そもそもFX選定では我が国の戦闘機開発・生産基盤を残すか、残さないかといった産業政策に関する議論を欠いていた。

 もともと政府・防衛省はF-22を望んでいたが、米国が輸出を認めなかった。筆者は長年にわたり、「米国はF-22の輸出を認めないだろう」と主張してきたが、事実その通りとなった。

 だが防衛省と空自はひたすら米国の心変わりを期待し、あたら時間を空費した。その間の約6年間でF-4EJの老朽化は進み、F-2の生産ラインは閉じてしまった。このため住友電工などメジャーな戦闘機のベンダーを含め少なくない企業が戦闘機生産から手を引いた。つまりメーカーからレッドカードを突きつけられたのだ。

 F-22は仮に輸出が許可されても国内での生産は不可能だった。つまりF-22を望んでいた時点で、防衛省も空自も、これまで巨額の国費を投じて、輸入の数倍も高いライセンス生産をしながら営々と培ってきた戦闘機の国内開発・生産基盤の放棄を決定したにも等しい。

 これは重大な政策の変更で、ひとり空自が決定できることではない。だが、単なる戦闘機の機種選定に矮小化され、国会でまともな議論すら行われなかった。これはある意味で防衛省による「先軍政治」であり、文民統制という視点からも大きな問題である。

 だが防衛省は、F-22の入手が不可能となると今度は同じく米空軍が採用したF-35Aを本命視して、まともな選定を行わなかった。そしてF-35Aに決まると国内でのFACO(機体の最終組み立て、検査)が決定され、今度はこれによって国内での国内開発・生産基盤が維持されると言い出した。

 森本前大臣も番組でそのように発言していたが、F-35のアビオニクス(電子機器)やシステムなどの多くはブラックボックスであり、我が国の産業界に技術移転のメリットはほとんどない。

 例えるならばFACOはパソコンの組み立て工場のようなものである。組み立て工場を作れば、それまで行ってきたCPUや、フラットディスプレイ、リチウム電池などのコアコンポーネント、さらにはOSのようなソフトウェアの開発をやめてもこれらの開発・生産能力が維持できると主張するに等しい。

 一部報道では、国内で最大4割のコンポーネントを生産できると報じられていたが、仮にそれらの部品、コンポーネントを輸出できるにしても随分と楽観的な数字だ。F-35は国際共同開発であり、生産分担は決まっているからだ。

 確かにF-35のコンポーネントの多くはリスク分散のために、デュアルソース化がされており、複数の企業が同じコンポーネントを生産する。だが、それでもそこに開発のリスクも負っていない我が国が4割もシェアをとれるわけがない。これも単なる口約束に過ぎない。

 仮に輸出をしないで38機(42機中4機は輸入)分のコンポーネントを国内専用に生産するならば極めて多大なコストがかかることになる。200機ほど生産したF-15Jですら米国の3倍ほどの単価になっているのだ。たかが40機弱であればどれほど高騰するかは容易に想像がつくだろう。

 しかも森本前大臣は国内生産については現在も米国側と交渉中であると述べた。これはあまりに世間知らずな

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