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銀座で職を得た若きシリア難民―SNSを活用した新しい国際協力の可能性―(政策男子部ルポ)

山中翔大郎(政策男子部)

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 米国のジョン・ケリー国務長官5月7日、ロシアを訪問し、セルゲイ・ラヴロフ外相との間で、アサド政権と反政権派の双方を招いた国際会議の開催を目指すことで合意した。シリアの内戦は、この2年強の間に7万を超える命を奪い、200万名以上が国外脱出を余儀なくされた。戦況は今年に入ってさらにエスカレートしており、3月の1カ月だけで一般市民を含む6000人が犠牲になったという報告もある。この状況下、当然のことながら、同国の多くの優秀な若者がキャリアを磨く場を奪われている。

 政策男子部員の山中翔大郎(26)は5月上旬、イスタンブールに渡航しシリアの避難民らと会合を行なった。山中は学生時代にマニラの女性移民支援NGO、国連広報センターでのインターンシップ経験を有し、今春にはSNSなどを活用した国際協力・緊急支援に取り組むWorldLink Project(http://www.facebook.com/WorldLinkProject)を立ち上げている。同プロジェクトを通して、職を求めるシリア難民が東京のIT企業から仕事を得るなどの成果も生まれ始めている。

シリア難民と銀座のITベンチャーがつながる

 海風が心地よく窓から吹き込むイスタンブールのアパートの一室。デスクの上のノートパソコンの画面にはプログラミングのコードがぎっしりと並んでいる。

 「提出してくれたコードは、そのままで大丈夫、イメージ通りだよ。あと、前のページには追加の項目を付け足す必要がある、後ほど仕様を伝えるね」

 シリア難民のモハマド氏(26)が提出したプログラミングのコードに対して、銀座からイスタンブールに、チャットを通して修正の指示が伝えられる。

 「まさか東京の会社で、こうしてオンラインでインターンシップができるとは思わなかった。トルコに避難してから半年、100社以上に応募したけど、職務経験がないからと断られ続け、絶望していた。同じ境遇のシリア人にもこのモデルが広がるとうれしい」。早速パソコンに向かって新たにプログラミングを進めながら、モハマド氏は答えた。

 モハマド氏はシリアのアレッポ大学情報工学部の4年生で、キャンプの外で生活するシリアからの避難民である。イスタンブールに逃れて11ヵ月になる。

 彼が有償インターンシップとして勤めているのは株式会社VESPER。東京・銀座にあるITシステム・コンサルティングサービス企業だ。彼はここからシステム構築の際のプログラミングの作業の一部を委託されている。ITスキルが高く、英語が話せるからだ。同社マネージャーの赤穂旭氏(26)は言う。

 「モハマド君は飛び抜けたやる気を持ち非常に優秀。彼のような人材が紛争が理由でやる気と能力が活かせないのは不公平だと思う。同じ地球に生きているのだから、困った時はお互い様という支え合いの精神が大切だ」

モハマド氏との出会いとWorldLinkの誕生

 このようなスキルを持つシリア難民と、ITの作業を委託したい東京のベンチャー企業を結びつけた形態が、WorldLinkのシリア支援プロジェクトのモデルケースだ。

 避難民は、高学歴で英語を話せ、ITのスキルを持っていたとしても、職務経験、言語、就労許可上の問題で職に就けなかったり、スキルとは関係の無い職業に就かざるをえなかったりしている。過酷な状況だ。

 一方、東京の企業側ではコスト削減のためにアウトソースするニーズは大きい。シリア難民に対しては雇用が創出され、東京の企業にとってはコストの削減が可能となる。一石二鳥のプロジェクトだ。現在、WorldLinkでは、東京だけでなくマサチューセッツ工科大学スローンビジネススクールの新興ITベンチャー企業に対しても参加を呼びかけている。

 プログラミングに留まらず、オンライン英会話、アラビア語学習、シリア特産品販売など、現地のスキル・リソースと東京のニーズが合致すれば新しいプロジェクトを生み出せる。スキルさえあれば距離も国籍も関係なく作業委託と受託を結び付けられる、クラウドソーシング、クラウドワーキングの働き方を難民支援、国際協力に応用し、特化させたのがWorldLinkのシリア支援プロジェクトなのだ。

 モハマド氏とは、旅人用の滞在先ホスト検索SNS「Couchsurfing」で知り合った。表示される全世界の地図から町を選択し、メッセージを投稿すると、地元の人たちから返信が来る。ロシアに隕石が落ちた際も、被害が生じたチェリャビンスクの町に、「隕石大丈夫だった?」と投稿すると、「怖かったけど、大丈夫、ありがとう!」と次々と返信が来る。おもしろいと同時に、世界中どこでも一瞬で連絡が取れ、状況を知ることができる。

 シリア情勢はずっと気になっていたので、激戦地とされるアレッポに「みんな大丈夫?何か必要なことがあれば言ってね」と投稿してみた。この投稿に対して返信をくれた一人がモハマド氏である。

 「現在イスタンブールに避難している。可能であれば、(1)勉強を続けたいので奨学金を見つけてほしい、(2)学んだITを活かせる仕事がほしい、(3)これらが難しければ平和を願ってくれるだけでも嬉しいよ」

 詳しく話を聞くと、

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