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イラン大統領選、ロウハニ勝利の謎

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 6月のイラン大統領選挙での最大の謎は、なぜロウハニ候補が圧勝したかではない。なぜハメネイ最高指導者がロウハニの勝利を許したかである。言うまでもなく、イランの現在の政治システムでは最終的な権力は最高指導者とよばれる宗教指導者の手に握られており、国民の選挙で選ばれる大統領は野党の党首的な存在でしかない。最高指導者の意向で大統領選挙を左右できるのだ。

 ロウハニの勝利の説明は、そんなに難しくない。保守派の候補が乱立した中、改革派はアレフ候補を推し、中道穏健派はロウハニ候補を支持していた。保守派に勝たせないためには、両者の協力が不可欠と見られていた。投票の前に両者の票が割れるのを避けるためにアレフは出馬を取りやめた。これで穏健派と改革派はロウハニ候補一人に票を集められた。保守派候補同士が足の引っ張り合いをする中、ロウハニが独走する結果となった。

 ロウハニの選挙運動は、投票直前になって大きな盛り上がりを見せた。ロウハニは、イランは警察国家のようになっている、治安当局が大学や組合など社会のあらゆる層に浸透して国民は、安全ではない、自由ではない、しかも経済制裁で生活水準は落ち込んでいる、政治犯は釈放されるべきである、イラン国民は、もっとまともな生活をするべきである、と現状を激しく非難した。

イラン大統領選挙で支持者に手を振って応えるロハニ(ロウハニ)師=2013年6月8日、テヘランイラン大統領選挙で支持者に手を振って応えるロハニ(ロウハニ)師=2013年6月8日、テヘラン
 すると人々は喝采を送った。棄権をすれば、よりよいイランを築く機会を失ってしまうとロウハニが呼びかけると、投票当日には予想外の数の有権者が投票に参加して、ロウハニ大統領を誕生させた。

 しかし繰り返そう。この選挙で説明が難しいのは、なぜロウハニが勝ったかではない。なぜロウハニをハメネイが勝たせたかである。大きく言って、これには二つの解釈がある。

 第一は、ハメネイは予想外の情勢の展開に驚いているうちに、あれよあれよと言う間にロウハニが大統領となってしまった。

 第二は、ハメネイは、最初からロウハニの勝利を意図しており、結果は予想通りであるとする解釈である。

 この二番目の説が正しいとすると、なぜハメネイはロウハニに勝たせたのだろうか。それは、現在の欧米との対決路線が破綻しているからである。経済制裁により国民生活は困窮しており、イランとしても妥協を模索せざるを得ない。となるとロウハニのような穏健な人物が必要となる。

 ハメネイは体制の生き残りと自分の地位の保全のために、穏健派の勝利を意図していたのだ。その証拠として挙げられるのが、ロウハニの体制批判とも思える選挙での言動を許容したことだ。ロウハニの出馬資格を剥奪しようとの一部の急進派の声をハメネイが抑えた事実がある。もし、この解釈が正しいのであれば、ハメネイはロウハニに仕事をさせるだろう。つまり、欧米との妥協を模索させ、経済制裁の緩和を実現しようとするだろう。

 はたして、この解釈は正しいのか。答えはハメネイのみぞ知るわけである。だが、この解釈に関しては、筆者自身は深読み過ぎると感じている。

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