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シリーズ「政治はネットで前進するか!?」最終回 “投票率”に私財80万円を投じる横浜男子

間中健介(関西学院大学客員研究員、政策男子部部長)

 中華街を擁し、全国的にも有数の国際色の豊かな町として知られる横浜市中区。5月の連休明けに、この街の一角にある10平方メートルほどのオフィスで、20代の若者数名が国のために私財を投じる決断をした。

 「政治が若者から離れている。若者の主張をシッカリ聞く政治家ほど選挙に弱いし、そもそも若者にとって政治家や行政の広報って伝わりづらい。政治の現場を知る身として、今年の参院選で政治と若者の橋渡しをしたい」

 国会議員秘書の経験を持つ伊藤和徳(29)、政治家の広報活動支援などに取り組む企画会社・ワカゾウの佐藤章太郎社長以下5名のスタッフは、第23回参議院議員選挙に向けて投票率向上作戦「センキョ割」を始動した。

 詳細はHuffington Postに紹介されているが、上記の円形ステッカーを張った店舗に行き、投票に行ったことを証明する“証拠写真”を提示すると、当該店舗で割引等のサービスが受けられる企画である。7月16日現在、東京、神奈川の約70店舗が投票率向上の趣旨に賛同しステッカーを掲示している。企画の展開を支えるのは投票権のない女子高生や外国籍の市民らを含む30名ほどのボランティアである。

 一連の活動に要した費用は60万円ほど。すべて主催メンバーらの私財である。彼等は昨年末の衆院選の際も20万円ほどを投じて同種の企画を行なっているため、1年足らずの間に80万円を投票率向上のために投じている。

 メンバーらは「投票という大切な日を盛り上げたい」と語るが、なぜ身銭を切ってまで投票率を上げたいのか。何が彼等を駆り立てるのか。何度聞いてもいまいちよくわからないが、社会を明るくする取り組みであることは確かだ。「身を切る改革を」と訴えるだけで何もできない政治家たちに彼等の爪のアカを煎じて飲ませたいと強く思う。

73回の晴れ舞台

 85歳まで生きると仮定すると、私たちには推定73回の投票機会がある。平成の世が到来してから来週の参院選までの間に、衆院選は7回、参院選は9回、統一地方選は6回行なわれている。これに加えて地方自治体の首長選が6回とすると、25年間で28回の投票機会がある。20歳から85歳までの65年間に換算すると73回になるのだ。

 実際には補欠選挙等もあるのでもう少し多くなるが、健康長寿な人生を送ったとしても70数回しか得られないということは、投票は人生にとっての貴重な晴れ舞台。となれば、この晴れ舞台が有権者個人にとっても国にとっても実りあるものであってほしい。

 ということで、身銭を切って活動する若者たちに感化された政策男子部では、持てる知恵を総動員(!)し、以下のようなアイデアをまとめてみた。

1.投票こそカップルの共同作業

 「投票してこそデート」という認識を日本全国に広げていく。投票日にデートを計画しているカップルは、まずは政党や候補者の公約等を一読し、投票の計画を決めるようにする。投票はカップルの大切な共同作業。「投票したい人がいない場合」は白票を投じるか、自分の名前を書くのもOK。投票日に都合がつかなければ期日前投票へ。 

2.芸術で投票文化を変える
 オシャレをして行きたいと思わせるぐらい、投票所を素敵な場所にする。地味なマットが敷かれBGMもない学校の体育館では、晴れ舞台には相応しくない。

 投票箱も重要。日本には世界で活躍するデザイナーやクリエイティブカンパニーが多数存在しているので、票を投じたくなるような華麗な投票箱をプロデュースする。形状も四角形にこだわらず、円錐、円形、さらには天守閣や飛行機、自動車など豊富に揃える。冬場であれば氷で投票箱を作るのもよい。

 ネット選挙運動が解禁されたので、タッチパネル式のゲームなどを投票所に置くことも有用だ。「衆議院の常任委員会の数は?」「選挙実施にかかる予算額は?」といったように選挙にちなんだクイズゲームや、“国獲りゲーム”のようにプレーヤーが政党の党首となって全国制覇を目指すようなゲームを備える。コンテンツ産業の力で投票文化を発達させるのである。

 投票所の設置場所は、夏季の場合は花火会場や盆踊り会場に併設すれば浴衣姿で投票所が賑わうし、冬季であればクリスマスイルミネーションスポットや餅つき会場に併設すれば、カップルやファミリーにとって便利。あとは、スーパーの特売セールのチラシを置いたり、懐メロのBGMを流すのもよい。

3.「コクれる日」にする
 投票は自身の信条を表明する機会なので、異性に対しても想いを伝えられる日とする。衆院選は「女性→男性」に、参院選は「男性→女性」に想いを伝える日とするなど、多彩なやり方がある。バレンタインデーやホワイトデーと同様に異性にチョコレートを渡す慣習を広げるのもよい。ネット上で「コクれる日」を盛り上げれば食品メーカーがこぞってアイデアを出してくるので、景気拡大の効果も見込める。

4.掲示板には顔でなくプレゼンを
 顔写真のアップを見せられて「私に投票してください」と言われても評価不能なので、各候補者にはポスター上でプレゼンをしてもらう。

 公設掲示板のスペースはたいてい余るので、2マス分を使って自身の言葉で政策アイデアを語ってもらう。文字をギッシリ書くのもよし、写真やグラフを使って示すもよし、ワンフレーズで伝えるもよし。候補者の特性がわかることは有権者の投票行動の一助になる。

5.若年時の投票ウェイトを増やす
 若年時に投じる一票と老齢時に投じる一票のウェイトに差をつけ、若年時のウェイトを高めることで、投票率の低い若年世代を投票に駆り立てる。

 例えば20代が投じた一票は5票のウェイトとして扱い、40代は4票、50代は3票と、世代が増すごとに投票価値を“減価”させていく。70代以上の人は1票、つまり20代の投票の5分の1のウェイトとして扱う。こうすれば政治は否応なく若い世代との接点を増やしていく。

 ほかにも「怠惰な旦那を投票所に連行したら役所で表彰される」とか「投票所でダンスパーティーをやる」とか、個々人のライフスタイルに合わせて無数のアイデアがあるだろう。限りある人生の晴れ舞台を輝かせるため、既成の枠組みに捉われず、今後も引き続き知恵を出し合っていきたい。

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<企画アドバイザー>

石橋哲(株式会社クロト・パートナーズ代表) http://klothopartners.wordpress.com/
1964年生まれ。東京大学法学部出身。長銀、CitiBank、産業再生機構等を経て現職。元・東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)調査統括補佐

<取材班レギュラーメンバー>
鶴野充茂(ビーンスター株式会社代表取締役) http://beanstar.net/
間中健介(関西学院大学客員研究員、政策男子部部長)