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陸から海へ――「予想内」だった防空識別圏の設定

藤原秀人 フリージャーナリスト

 中国が11月23日、尖閣諸島上空を含む空域に防空識別圏(Air Defense Identification Zone、ADIZ)を設定したことに対して、日本や米国などから強い非難が相次いでいる。安倍晋三首相は11月25日の参院決算委員会で「尖閣諸島の領空があたかも中国の領空であるかのごとき表示で、まったく受け止めることはできない」と強く批判した。米政府も23日、「地域の緊張を高め、衝突のリスクを高める」と非難する声明を発表した後も、様々な批判を重ねている。

 中国の一方的な行動に対する日米当局の強い反発は当然のことだ。だが、中国による防空識別圏設定を、日米当局がもし「予想外」と受けとめていたのだとすれば、中国の動向への観察力が足りなかったと言わざるをえない。

 中国人民解放軍は共産党が1927年に創設した「中国工農紅軍」を源流とし、当初は国民党との内戦に勝利することが目的だった。当然のこと、主戦場は陸上だった。解放軍に海軍と空軍ができたのは1949年。中華人民共和国建国後も、広大な国境線を接していたソ連への備えから、軍といえば陸軍という時代が長く続いた。

 それが冷戦が終わったことで、台湾との統一が大きな目標として再浮上し、台湾を守る米海軍にどう向き合うかが重要課題となった。中国は艦艇の近代化を進めただけでなく、1992年には尖閣諸島や西沙諸島、南沙諸島を領土であるとした「領海法」を施行し、1997年には海洋権益の維持を明記した「国防法」を施行した。

 このように海上への関心を強めてきた中国は、2012年9月の日本政府による尖閣国有化以来、公船による日本領海を侵犯する行為を繰り返してきた。

 中国が海軍を強化するのを受けて、米軍や航空自衛隊は空からのパトロールを進めてきた。2001年4月には南シナ海の公海上空で、米軍の電子偵察機EP3(乗員24人)と中国軍のF8ジェット戦闘機1機が空中接触し、米機は海南島に緊急着陸、中国機は墜落し乗員が行方不明になる事故が起きた。いまだに原因ははっきりしないが、中国が米軍機の監視に神経質になっていたのは確かだった。

 日本の防空識別圏が1969年に米軍から空域を引き継いだもので、海岸線から12カイリ(約22キロ)の領空より大きく外側に設けていることへの不満も非常に大きかった。「日本の識別圏は冷戦時のままだ」と話す中国軍関係者は多かった。

 筆者はこの事故の後、中国はなぜ防空識別圏を設けないのか、と中国軍関係者に何度か尋ねたことがある。

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