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言論統制強める習近平政権 体制維持へ危機感の表れ

及川淳子 法政大学客員学術研究員(中国の言論研究)

 中国の習近平政権は、最近、言論統制を一層強化している。習近平国家主席(中国共産党総書記)は党、国家、軍のトップに加え、経済、政治、文化、社会、エコロジーの5分野で構造改革を推進するための党中央改革全面深化指導小組組長、国家の安全に関わる政策の決定と遂行を目的とする党中央国家安全委員会主席に就任し、権力基盤を固めた。今年4月、習氏は党中央国家安全委員会の第1回会議で「総合的国家安全観」の堅持を強調した。外交や軍事などの伝統的な安全保障に加え、文化、社会、情報などの安全にも言及したため、これらの安全の確保を名目とした言論統制がさらに強化されるのではないかと懸念されている。習氏は汚職、腐敗の撲滅に強権を振るい、党内の権力闘争を押さえ込んでいる。一連の動きは中国共産党による一党支配という現体制の維持が目的だが、言論統制の強化は、むしろ体制維持に対する危機感の表れといえよう。

                          AJWフォーラム英語版論文

 昨年5月、「七不講」(7つの語ってはいけないこと)と呼ばれる共産党宣伝機関の内部通達がインターネットで暴露された。普遍的価値、報道の自由、市民社会などを大学で教えてはならないという内容だ。その後、海外メディアがスクープした「中共中央9号文件」にも、同様の方針が記されていた。

 今年7月、党の人事や組織改革を担当する党中央組織部は幹部教育に関する通知を発表した。注目すべき内容は3点だ。まず「習総書記の一連の重要講話の精神を学習し、理解する」。次に「マルクス主義に対する信念を固め、西側の憲政民主(憲法に基づく民主政治)、普遍的価値、市民社会などの騒音の中で方向を見失わない」。3番目は「中華の優秀な伝統文化を発展させ」「西側の道徳的価値の"イエスマン"にならない」というものだ。「七不講」と「9号文件」に続いて、民主化に向けた動きを封じ込めようとする狙いだ。

 さらに8月には、ネット管理の暫定規定「微信10条」が発表された。中国のネット人口は6億人を超え、特にインスタントメッセンジャー・アプリの「微信」の利用者が急増している。新たな規定は「微信」の実名登録を義務づけるほか、メディアの公式アカウント以外は「微信」で時事ニュースや評論を発信してはならないという内容だ。ネット世論の影響力拡大に対する警戒も高まっている。

研究・教育でも統制強化

 習政権の言論統制は、国際社会で重視されている人権、自由、民主などの普遍的価値を徹底的に否定するという方針だ。筆者がメディア政策と同時に注目するのは、研究・教育分野における統制強化の傾向である。

 今年7月、全国哲学社会科学規画弁公室は2014年度の国家社会科学基金の重要プロジェクトを発表した。中国政府が助成金を支給する研究プロジェクトだ。採用された研究課題には、「習総書記の重要講話の精神」「中国の夢」「中華の伝統」など習政権の方針を学術面から支持するテーマが多い。

 政府系シンクタンクの中国社会科学院でも引き締めが強化されている。6月、党規律検査委員会の幹部が中国社会科学院のイデオロギーに問題があると批判した。7月には、院長が自由な学術活動を規制する旨の講話を発表した。

 思想統制は人材育成の分野でも強化されている。中国の主要大学にはメディア従事者を養成する新聞学院があるが、9月の新学期にあわせた改革が各地で進められた。メディアや地方レベルの党委員会宣伝部が大学と共同で新聞学院を設立し、運営するという取り組みだ。メディアに対する規制を人材育成の段階から始めているのだ。

 それだけではない。習政権発足後、学者、ジャーナリスト、人権派弁護士らが「騒動挑発罪」「国家分裂罪」などの容疑で検挙される事件が頻発している。統制強化は政権が抱く危機感の表れと言えよう。

 言論統制は、今後もさらに強化されていくと思われる。表向きは社会の安定を維持するためとされるが、真の目的は共産党による統治の正当性を確保し現体制を維持することだ。しかし統制が強化されればされるほど、閉塞(へいそく)感の中で、人々の自由への希求を呼び起こすだろう。「法治」を掲げる習政権が、今後、どのような言論政策を進めていくのだろうか。目が離せない。

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本論考はAJWフォーラムより転載しています