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厚生年金強制加入は、景気をさらに悪くする

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 政府はこの夏、2015年度から厚生年金保険に未加入の中小零細企業に対して、強制的に加入させる方針を明らかにした。だがこれは経済に極めて大きな打撃を与える危険性がある。

 現在約80万社(事業所)、およそ数百万人が厚生年金に未加入となっている。企業が厚生年金加入に応じない場合には、差し押さえなど法的措置により強制的に加入させる考えだ。

 大手企業ならば厚生年金に加入していることは当たり前だが、中小零細企業はそうではない。本来法人は社長一人でも厚生年金に加入する義務があるが、政府はこれまで強制することなくきた。これはかつて無理やり加入を強制させたときに倒産した零細企業が多かったからだ。

 確かに規則は規則であり、順守すべきだ。また現状を放置すれば保険料を払っている企業や労働者の不満が強まり、年金への信頼が揺らぎかねないという危惧を憂うのも当然だ。

 だが本音の目的は年金財政の健全化だろう。現在、税金や厚生年金から国民年金への補填が行なわれている。これが年金財政、換言すれば国庫と厚生年金を圧迫している。

 このため厚生年金の加入企業を増やして、厚生年金を立て直し、併せて国庫からの国民年金への持ち出しを減らそうという狙いだろう。

 中小企業の従業員には国民年金にも入っていない人々も少なくないだろう。国民年金は個人が保険料を毎月振り込んだり、窓口で払ったりする必要があるが、現在厚生年金に加入していない企業が増えれば、従業員はすべて厚生年金に移行し、企業が一括して保険料を払うことになり、国にとっては「トリっぱぐれ」が減ることになる。当然ながら国民年金の不払いも解消できる。

 だが中小零細企業に厚生年金への加入を強制すれば、景気がさらに悪くなる可能性がある。

 中小零細企業、特に零細企業にとって厚生年金加入は極めて重たいコスト上昇になるからだ。そのぶん役員も従業員も手取り収入が減ることになる。アベノミクスでインフレが進行中だが、ご存知のように所得は増えるどころか減っている。数百万人の所得がさらに減れば景気に与える影響は極めて大きいだろう。

 また厚生年金加入によって、倒産したり、事業整理する企業が少なからずでてくるだろう。そうなれば失業者が増え、失業手当もより多く必要になる。当然ながら経営者は失業保険に入れないので、会社が倒産したり、商売を畳んだりすれば収入は無くなる。

 従業員=役員といった家族経営のような企業や役員の比率が高い企業にとって厚生年金加入は単純に損だ。

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