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ノーベル平和賞マララ・ユスフザイさんの怒り

日本政府は、「塹壕」を「教室」に戻せる

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

  「これは数学クラスの教室。でも、もう違う。軍の塹壕になってしまった」と、学校の教室を見渡して、ある少女が嘆きます。嫌悪の入り混じった絶望の声。彼女は失望をあらわにして続けます。

 「私たち市民を守ってくれる軍が誇りだった。でも変わり果てた学校の姿をみて、今ではとても恥ずかしい」

 そう嘆いた少女が来週(12月8日~)、ノーベル平和賞の授賞式に出席するためオスロに向かいます。

 教室でのできごとは、2009年に製作されたマララ・ユスフザイさんのドキュメンタリーの1シーン。彼女がタリバーンに襲われる前のことです。

父親(左)や駐英パキスタン大使らに囲まれるマララ・ユスフザイさん=2014101010日、英中部バーミンガムノーベル平和賞を受賞し、父親(左)や駐英パキスタン大使らに囲まれるマララ・ユスフザイさん=2014年10月10日、英中部バーミンガム
 一家は戦闘を逃れて故郷の町を離れました。後になってマララさんは、父親の経営していた学校が軍事利用されていたのを知るのです。それがこのシーンです。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界各地の紛争地で学校を調査してきました。そして、残念ながら、学校を軍事拠点にして交戦する兵士たちを多く目撃してきたのです。

 有刺鉄線で校庭を囲み、兵士用の簡易ベッドで教室を埋め尽くす兵士たち。校舎の屋上には周辺を見渡せるよう防御設備、教室の窓には狙撃兵……。廊下にはライフル銃を積み上げて、机の下に手榴弾を隠し、体育館に装甲車両を駐車します。

 こうした学校の軍事利用は、学校を敵対勢力の軍事目標に変えてしまいます。

 生徒や教師はもちろん危険にさらされることになり、実際に犠牲になる生徒や教師が後を絶ちません。生徒たちはまた、兵士と一緒に学校を利用することを余儀なくされ、性暴力や強制労働、強制徴用のリスクにも直面することになります。

 そして、通学を諦めて自宅待機するか、交戦に巻き込まれるかもしれない恐怖の中で戦闘員の脇で勉強するか、という選択を迫られます。

 過去10年で政府軍などの武装軍(そして国連平和維持部隊でさえ)が、学校を軍事利用した紛争下の国は少なくとも25カ国にのぼります。アフリカ、南米、アジア、欧州、中東など世界各地で起きている世界的な問題で、国際的な解決策が必要です。

 国際法は武力紛争の全当事者に、可能な限り紛争の危険から一般市民を守るよう、広く義務づけています。ところが、紛争下の軍隊が教育機関を様々な理由で軍事利用することを阻止するための、明確な基準や規範を欠いているのが現状です。

 しかし再来週(12月15日~)、これらすべてが変わろうとしています。

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