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[3]「教養」とは何か――知的エリートの条件

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

課題図書
「メインの3冊」
 池上彰『おとなの教養――私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(NHK出版新書)
 澤田昭夫『論文の書き方』(講談社学術文庫)
 芳沢光雄『論理的に考え、書く力』(光文社新書)

「サブの3冊」
 池上彰『情報を200%活かす 池上彰のニュースの学校』(朝日新書)
 村上陽一郎『ペスト大流行―― ヨーロッパ中世の崩壊』(岩波新書)
 福沢諭吉『現代語訳 学問のすすめ』斎藤孝・訳(ちくま新書)

 教養を身につけるためにはアナロジカルに見ていかないといけません。その前にちょっと言語構造の話をしますと、日本語の言語構造とロシア語やドイツ語は一見、違うように見えるでしょう? でもだいたい一緒です。どうしてでしょうか? 

 それは主語と目的語があるからです。世界には主語と目的語がない――非常に少ないけれども――そういう言語があります。

 例えばグルジア語。グルジア語って、一つの動詞が1万5000変化するんです。アディゲ語になると20億ぐらい変化するといわれています。このあたりは、千野栄一『プラハの古本屋』(大修館書店、品切れ)にコーカサス言語の細かいことが書かれています。

 ちなみに、このコーカサス言語と似たような言語がスペインのバスク語です。バスク語にも、能格絶対格構造があって、主語と目的語ではない文法構造を持っている。

 そうするとその言語を使う人たちは我々とは思考体系が相当違うはずですよね。スターリンはちなみにグルジア人です。だから言語学者は、コーカサス言語とバスクの言語というこの一番の謎に必ず行き着くわけです。

 ちょっと与太話になりますが、この問題で言語学者と話しているときの仮説で一番多いのは、もともとはコーカサス系の言語を話す人間はたくさんいたらしいのだけど、そこに後発の主格、対格を使う人間たちがやって来て、能格絶対格構造で話している人間が山岳地帯に逃げてしまったということです。

 だからバスクとかコーカサスのような、すごく山の深いところにしか住んでいないという仮説を唱えるんですが、これは実証できません。

柄谷行人柄谷行人氏
 こういう問題に取り組んだのが柄谷行人さんの『遊動論――柳田国男と山人』(文春新書)で、日本人の原型のようなことについて彼は踏み込んでいるけれども、これはすごくいい本です。

 ものすごく難しくて、普通だったら30冊ぐらい専門書を読み解かないといけないことを、柳田國男という我々と比較的近い世界の人の話とつなげることで、わかりやすく書いている。

 だからこういう本を読むことが教養の応用問題としてはいいんですね。

 ちなみに、このあたりの問題も含めて柄谷さんと私が『現代思想』で対談をしているので(『柄谷行人の思想』2015年1月増刊号、青土社)、最近の二人の問題意識が重なるところがわかると思います。

 次は反知性主義とポピュリズムの問題を考えます。この二つが交ざると何が出てくるかというと、ナルシシズムです。

 ナルシシズムはギリシア神話の美少年ナルキッソスに由来しますが、このナルキッソスのような心理について詳しく書いてあるのが、フランスの人口学者で、優れた人類学者でもあるエマニュエル・トッドの『デモクラシー以後――協調的「保護主義」の提唱』(藤原書店)です。

 この中で、ナルシシズムがどうしてポピュリズム、そしてネオリベラリズムの中から出てくるのかを読み解いていて、フランスのサルコジ現象を解明していますが、実に説得力がある。

 この点を少し乱暴に言うと、安倍晋三さんは

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