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自衛隊イラク派遣の闇の実態と安保法制

戦地派遣ストレスで、イラク帰還隊員の家庭に何が起きたか

谷田邦一 ジャーナリスト、シンクタンク研究員

 陸上自衛隊がイラクでの人道復興支援に派遣されて今年で11年。国際協力活動の幅を広げようという安全保障法制見直し論議にからめて、初の「戦地派遣」の実態がどうだったのかに再び関心が高まっている。

 とりわけ注目されているのが帰還隊員の自殺率の高さだ。イラク派遣は、隊員にどのようなメンタル問題をもたらしたのか。数多くの隊員や家族に接してきた医師や研究者の話を通して、ようやく「闇」の一端がおぼろげに見え始めた。

 防衛省が長く伏せてきた数字を公表したのは6月5日。イラク派遣隊員の自殺にからみ、民主党の阿部知子衆院議員が出した質問主意書への答弁書の中にある。

06年7月、英軍のヘリコプターに乗り込みサマワを離れる派遣部隊=陸上自衛隊提供2006年7月、英軍のヘリコプターに乗り込みサマワを離れる派遣部隊=提供・陸上自衛隊
 この10年で自殺した陸上自衛隊員の数は21人。

 そのうち3人について「イラク派遣も原因のひとつ」(同省幹部)として公務災害に認定していたと明らかにした。

 これまで派遣と自殺との関連を「不明」としてきた同省が、初めて方針転換し因果関係の一部を認めた形になった。

 2004年から06年までの期間中、イラクに派遣された陸自隊員は約5480人。このうち現在、21人が在職中に命を絶っている。

 2015年に入って新たに1人が自殺し、その数は今なお増え続けている。しかも自殺者の中には警備中隊長(3佐)や衛生隊長(2佐)といった幹部まで含まれている。

 この数字が高いのか低いのかを示すのはかなり難しい。単純に10万人あたりの自殺者数(自殺率)に換算してみると、年平均で38・3人の割合になる。

 確かに一般職の国家公務員の自殺率21・5人(13年度、人事院調べ)を大きく上回り、男子自衛官全体の35・9人と比べても高い値ではあるが、年平均にしてしまうとイラク帰還隊員の自殺率の方だけが時間がたてばたつほど下がり、やがてゼロになるという珍現象が起きてしまう。

 実際に隊員のメンタル治療に携わってきた医療関係者はどう見ているのか。元自衛隊中央病院精神科部長として隊員の診療のため6回、イラク・サマワを訪れた経験をもつ福間詳さんにお聞きし、

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