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パリ同時多発テロの特殊性。銃撃と自爆が一体化

新しい手法が別の地域や組織に広がる危険性も

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 フランスのパリで129人(本稿執筆時)が殺害される同時多発テロが起きた。1月にイスラムの預言者の風刺画を掲載したシャルリ・エブド襲撃事件以来のテロである。

 7人の実行犯が、6カ所に分かれて、銃を乱射した後、警官に射殺された1人を除く6人が自爆ベルトで自爆した。襲撃だけならばシャルリ・エブド襲撃事件と同様の都市ゲリラ型のテロであるが、自爆が加わったことで、さらに暴力性、無差別殺戮性が強まった。

=ロイター暴力の負の連鎖をいかに食い止めればいいのか=ロイター

 シャルリ・エブド襲撃事件の際、WEBRONZAで「フランスの襲撃事件と中東のミリタリズム」と題する分析を書いた。

 その中では、パリの中心部で過激な武闘派の行動が起こる背景として、中東でのミリタリズムの蔓延が欧州にも波及していると指摘し、「この事件は、今後対応を誤れば、欧米で同様の武装テロが続く転換点になるかもしれない」と書いた。

 「対応を誤れば」というのは、欧米が中東のミリタリズムをさらに激化させる方向に動けば、ということだったが、残念ながら、1月よりもはるかに暴力的な同時多発テロが起こったことは、中東や「イスラム国」(IS)への対応を誤っていると言わざるを得ない。

ミリタリズムのレベルが上がった「高度なテロ」

 フランスが9月下旬に「イスラム国」(IS)への空爆を始め、その足元で大規模なテロが起こったとあっては、フランスのオランド大統領が国内治安の不備の責任を問われかねない事態である。

 9月下旬、フランスとともに、ロシアも空爆に参加した。ロシア参戦の1カ月後の10月末、ロシア航空機がシナイ半島で墜落し、乗員・乗客224人が死亡した。これにはシナイ半島のIS系組織「ISシナイ州」が「墜落させた」とする犯行声明を出した。当初は、ミサイルによる「撃墜」と解釈され、信用されなかったが、機体やブラックボックスの調査の結果、機内に持ち込まれた爆弾によるテロであることが明らかになった。

 ロシアに対しては、10月中旬、IS広報担当が、「ジハード(聖戦)」を呼びかける声明をだした。パリ同時多発テロの翌日、オランド大統領は「ISによる戦争行為」と宣言し、軍事行動を激化させると主張した。しかし、アラビア語のツイッターには「もともと戦争を仕掛けてきたのはフランスだ」と、オランド大統領の宣言を批判するツイートが出た。

 パリとシナイ半島での重大なテロを受けて、ロシアとフランスが合同でISを攻撃する、という報道も出ている。

 しかし、フランスの同時多発テロにしても、シナイ半島のロシア航空機の爆弾テロにしても、シリアのISが指令すればできるような単純なものではなく、テロの現地に根差した地元組織がなければ、到底不可能な高度なテロである。

 テロに対して、ISへの空爆を激化させれば、さらに中東のミリタリズムのレベルを上げ、「火に油を注ぐ」ことにもなりかねない。

 ISは、米主導の有志連合の空爆を受け、米軍が支援するクルド軍の攻勢も受けている。さらにロシアの空爆にさらされている。IS地域への人の出入りは厳しく監視されているし、情報面でもISの通信やインターネットを通しての情報発信は欧米に監視され、外部と自由に情報をやりとりできる状況ではない。

 フランスでも、シナイ半島でも、高度なテロがおこなわれたのは、それぞれ独自に組織を高度化させ、ミリタリズムのレベルを上げた結果と考えるべきである。

 もちろん、フランスのテロ実行犯が軍事レベルを上げるにあたっては、ISの支配地域に入って軍事訓練を受けたり、戦闘に参加するという経験を得たことが大きな意味を持ち、「IS帰り」の役割は大きいはずだ。

 それは90年代のアルジェリアでのイスラム過激派と政府軍・治安部隊との抗争と同じだ。ここでは、アフガンのアルカイダから指令を受けたのではなく、イスラム過激派の「アフガン帰り」が重要な役割を演じた。

イスラム法では当然視されない自爆攻撃

 今回のフランスの同時多発テロについて、私は地元組織の独自性が高いと見ている。そう考えるのは、銃撃と自爆を組み合わせた、これまでにないテロの形をとっているからでもある。

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