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アウトサイダー優位の予備選 背後にある民意とは

リーマン・ショックの8年間への怒りと「9.11からイラク戦争の時代」への拒否反応

冷泉彰彦 作家、ジャーナリスト

選挙戦序盤の展開は意外な方向へ

 2月1日のアイオワ州党員集会に始まった大統領予備選は、2月9日のニューハンプシャー予備選、2月20日のネバダ州党員集会(民主党)、サウス・カロライナ州予備選(共和党)、2月23日のネバダ州党員集会(共和党)がすでに終了した。

 民主党では、ヒラリー・クリントン候補が1位→2位→1位と優勢だが、得票率では常にライバルのバーニー・サンダース候補に猛追を受けている。サンダース候補は、多額の個人献金を集めており、8年前の「オバマ対ヒラリー」の予備選のような「長期戦」に持ち込む構えだ。

 一方の共和党では、ドナルド・トランプ候補の勢いが止まらない。当初は一種のタレント候補として、早期に失速すると思われた同候補だが、緒戦のアイオワで2位だった後は3連勝しており、ネバダ州では45.6%の得票率を獲得して「地滑り的(ランドスライド)勝利」という形容もされている。

 また、父と兄に続いてホワイトハウスを狙っていたジェブ・ブッシュ氏(前フロリダ州知事)は、サウス・カロライナ州での惨敗を最後に選挙戦から撤退した。共和党では、独走するトランプ候補を、マルコ・ルビオ候補とテッド・クルーズ候補が追うという展開で、選挙戦としては、この3名に絞られてきた。これは、昨年の時点で多くのアナリストが予想した選挙戦とは全く違う構図となっている。

アウトサイダーの勢いが止まらない

ドナルド・トランプ氏=ランハム裕子撮影ドナルド・トランプ氏=ランハム裕子撮影

 現時点の選挙戦を一言で形容するなら、民主党のサンダース、共和党のトランプという「アウトサイダー」の勢いが止まらないということだ。実業家でTVタレントのトランプは完全なアウトサイダーだが、上院議員のサンダースも「民主的な社会主義者」を自称しており、極端なリベラル政策を掲げて「ワシントンとウォール街のエスタブリッシュメント」を敵視する姿勢は「アウトサイダー」に他ならない。

 その一方で、民主党のヒラリー・クリントン、共和党の上院議員や知事経験者などは、序盤戦を通じて苦戦が続いている。こうした動きに対して、昨年末までは様々な解説がされていた。サンダースの躍進は、ヒラリーの一連の「メール疑惑、ベンガジ疑惑」などの反動であるとか、トランプへの支持は「本命視されていたジェブ・ブッシュ候補の弱々しさ」など、他候補の方に問題があるからという具合だ。

バーニー・サンダース氏=ランハム裕子撮影バーニー・サンダース氏=ランハム裕子撮影

 そんな中、いくら世論調査の支持率が高くても、本番の党員集会や予備選では、こうした「アウトサイダー」への支持は限られるのではないか、そのような見方もあった。だが、実際の結果はそうした予測を裏切るものだった。

 アナリストたちの中には、これから南部へ行けばサンダースの勢いは止まるだろうとか、カリフォルニアなどの大票田になればトランプは勝てないだろうなどという見通しもある。だが、序盤戦の結果については、このような「アウトサイダー」の「旋風」が続いている、これは歴然とした事実だ。

「リーマン・ショック以降の8年間」を否定したいという衝動

 であるならば、その背景にある民意を読み解かなくてはならない。

 今、アメリカの有権者の中にある「思い」とは何なのだろうか?

 何がここまで彼等を「アウトサイダー支持」に走らせているのだろうか?

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