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[1]ヤンゴンの街も市民も驚くほど平静な理由

伊藤千尋 国際ジャーナリスト

 ミャンマー(ビルマ)は4月11日から20日まで、1年で最も晴れやかな「水かけ祭り」でにぎわう。いわゆる旧正月に当たり、街を通る人々に水をかけあい、前年の穢れを水で清めて新たな年を迎える。

 今年はただの新年ではなく、歴史的な民主化の時代を迎える喜びも加わった。アウンサンスーチーさんが率いる国民民主連盟(NLD)の文民政権が4月1日、正式に発足した。私は直前の3月末に6日間訪れ、軍政の国から民主主義の国に生まれ変わる姿を見た。

夕方の仕事帰りにシュエダゴンパゴダで祈る人々夕方の仕事帰りにシュエダゴン・パゴダで祈る人々 撮影・筆者
 この国は今、一年で最も暑い盛りだ。乾季と雨季の間の今、3月から5月中旬までは特別に「暑期」と言う名で呼ばれる。

 ヤンゴンの昼過ぎの街角の気温は41度だった。乾いているので蒸し暑くは感じないが、日差しは強烈だ。市場では店員がぐったりして昼寝をしている。

 交差点の真ん中にパゴダがそびえる中心部の市役所前では、水かけ祭りのための施設を設営中だった。

強い信仰心

 午前中はえんじ色の袈裟を身につけた僧侶が黒い鉢を抱えて托鉢する姿があちこちで見られる。

 この国の男性は、人生で少なくとも一度は得度して僧侶になる。一般市民でさえ殺生や飲酒をしないなどの五戒を守る(はずの)この国では、出家すると227もの戒律を守らなければならない。正午以降は食事しない。金銭を持たないし、音楽や芸能を鑑賞することもない。

 日本でミャンマーといえば竹山道雄の小説『ビルマの竪琴』が何度も映画化されたが、実際のミャンマーでは僧侶が

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