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1年後の仏大統領選 右翼のつけ入る隙はあるか

国末憲人 朝日新聞論説委員、青山学院大学仏文科非常勤講師

 フランスの大統領選まで1年足らずに迫り、立候補に向けた動きが本格化している。

 ただ、名前が挙がるのは、左派社会党の現職フランソワ・オランド大統領に、右派「共和主義者」のニコラ・サルコジ前大統領とアラン・ジュペ元首相。20年以上前から政界の中枢に居座る重鎮ばかりで、刷新を求める世論は白けている。

 トランプ氏やサンダース氏の踏ん張りで少なくとも話題は豊富な米大統領選の陰で、こちらの前哨戦は全く盛り上がらない。その隙を突いて、右翼「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が着実に支持を固めている。

 次期大統領に最も近いのは誰か。右翼大統領の可能性はあるのか。現状を追った。

サルコジ氏にレッドカード

サルコジ前大統領サルコジ前大統領

 フランス大統領選は、第1回投票が2017年4月23日、上位2人による決選投票が5月7日に実施される。

 右派の主要政党「共和主義者」(旧「大衆運動連合」)はこれに先立ち、今年11月20日と27日に公認候補を決める予備選を実施する。その座を目指して党内の主要政治家が乱立しているが、中心となっているのはジュペ元首相とサルコジ前大統領だ。日程はやや流動的で、前倒しの可能性も取りざたされる。

 パリジャン紙の5月初旬の世論調査によると、この予備選では第1回投票でジュペ氏が41%、サルコジ氏が24%を獲得し、両者の決選でジュペ氏が63%の支持を集めて勝利を収める見通しだ。

 世論もジュペ氏に同情的だ。頭の回転が速く政策通のジュペ氏は、シラク元大統領の後継者の筆頭に挙げられながら、パリ市助役時代のスキャンダルで謹慎しているうちに、サルコジ氏に大統領の座をさらわれた。「ジュペにもう一度チャンスをやったら」との声は、多くの市民が共有している。かつてはエリート臭が強く人気も散々だったが、苦労して人間ができてきたというのがもっぱらの評価でもある。

 一方、サルコジ氏は前大統領選に敗れた後、いったん政界を引退したのにすぐ復帰して頻繁にメディアに露出していることから、食傷感を抱く人が少なくない。ニュース専門チャンネル「イーテレ」の5月末の世論調査では、78%が「サルコジ氏の立候補を望まない」と答えた。

最有力はジュペ氏だが……

アラン・ジュペ氏アラン・ジュペ氏

 中堅機関BVAが5月半ばに実施した世論調査によると、右派がジュペ氏を公認した場合、大統領選の本選でも第1回投票で彼が38%の得票でトップに立ち、右翼ルペン党首が25%で2位となる。オランド大統領は13・5%で決選に進めない。一方、右派がサルコジ前大統領を公認した場合には、ルペン党首が27%で1位になり、サルコジ前大統領が22%でこれに続く。オランド大統領は15%で、やはり決選に進めない。

 決選投票は、右派のいずれかが勝つと予想されている。ジュペ対ルペンの場合だと、ジュペ氏が70%を得て圧勝する。ただ、サルコジ対ルペンの場合、サルコジ氏の得票は56%にとどまり、44%のルペン氏にかなりのところまで迫られそうだ。

 つまり、ルペン氏が決選に残り、しかし最後はジュペ氏が勝つ。これが、世論調査が示すもっとも可能性の高い展開である。

 ただ、フランス大統領選にハプニングはつきものだ。

 1995年は、それまで一番人気だった当時のバラデュール首相が直前に失速し、第1回投票で社会党のジョスパン氏がトップに経つ番狂わせの結果、決選でシラク氏が大統領の座を射止めた。2002年にはジョスパン氏が有力と見られたが、ふたを開けると右翼ルペン現党首の父で当時の党首ジャンマリー・ルペン氏が決選に勝ち残った。2012年を制したオランド氏は、その前に社会党の職を辞して隠遁生活を送っており、多くの市民は立候補さえ予想していなかった。

 フランスではほぼすべての選挙が2回投票制をとっており、1回目と決選とで投票先を変える「戦略的投票」をする人が少なくない。投票を、民主主義の権利行使の場としてでなく、自らの意見表明の場だと心得ているのである。これも、結果が読みにくい一因となっている。

 そのような複雑さから、オランド大統領の再選もあり得るのでは、との予想も消えていない。

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