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トランプ氏当選を受け、今私たちがすべきこと

この激震を日本の外交・安保のあり方を国全体で考え議論する機会にせよ

猿田佐世 シンクタンク「新外交イニシアティブ」事務局長・弁護士(日本・ニューヨーク州)

日米関係に大きな変化は起きない可能性が高い

 トランプ氏は、「駐留経費を日本が全額支払わねば米軍撤退」「日本の核武装容認」など、過激な発言を繰り返してきた。日本でも多くの人々が今後の日米関係がどうなるか、固唾をのんで見守っている。しかし、良いか悪いかは置くとして、まずは、日米関係の大きな変化は起きない可能性が高い。

見物する人々のブーイングと歓声が飛び交う中、手を振るトランプ氏。ニューヨーク・タイムズのビルを後にした=11月22日
 その何よりもの理由は、日米双方においてこれまで外交を担ってきた人々が、そのような変化を許さないであろうということである。既に現在、日本政府を含むこれまで日米外交をつかさどってきた人々が「今こそ日米関係の真価が問われる」などといって、従来の日米関係を継続するよう懸命に働きかけを行っている。

 アメリカの歴代政権の対日政策は、経済政策についても安保政策についても、民主・共和いずれにおいても大きな差異はなかった。筆者は、調査で、アメリカの対日外交コミュニティーに入るには①日米同盟の重視、②在日米軍の維持、③自由貿易重視が必須条件であるとの回答を得たこともある。トランプ氏の発言はこれらを覆すものである。しかし、対日政策の分野で大きな変化を起こすほどの人的リソースをトランプ陣営は有しておらず、また、氏にとって対日外交は優先順位として高いものではない。

 共和党の著名な知日派のほとんどは「トランプを支持しない」と選挙中に意見表明している。「それでもなお、トランプ政権に入ろうと努力している人々が今動いているのでは?」との筆者の問いには、ワシントンで対日政策を追いかけている筆者の複数の友人が「トランプは執念深いので難しいだろう」と回答した。もっとも、アジア外交担当者の人事、さらにはその人々により進められる実際の政策は、今進められている閣僚級人事の結果に強く影響されるだろう。

外交・安保のあり方についての具体的提案の欠如

 トランプ氏が当選したのは国内政策の変化を強く訴えたからであり、氏にとっての最重要事項は経済を含む国内政策である。外交、特に日米外交については、その着手は夏以降、あるいは、さらに先になる。日本に対する駐留経費増加要求などは、国内政策がうまくいかず米国内の批判をそらす必要に迫られた際に、なされる可能性もある。

 なお、この要求にNOといえるのか、若干でも増額してしまうのではないか、など、日本政府の対応が注目される。もっとも、「米軍全面撤退」は、米軍やその周りの既得権益層、議会などの強い反対があり、アメリカの選びうる選択肢ではないことは冷静に理解しておくべきである。

 何よりも、今なすべきは、「既存の日米関係はどうしたら維持できるか」と戦々恐々とし、トランプ氏が路線修正をするように全エネルギーをかけて働きかけることではなく、この激震を日本の外交・安保のあり方を国全体で考え議論する機会とする、ということである。もう少しはっきり言えば、「対米追従」という物差しだけで物事が決められなくなった際に何を我々は選択するのか、という点について、総論はもちろん各テーマについて検討していく機会とすべきなのである。その検討をすることで、引き続き進めるべき政策と、方向転換すべき政策が見えてくるだろう。その後に、その検討結果に沿って働きかけを行うべきである。

 現在の日米外交のあり方に疑問を持つリベラルな人々においてですら、「今後どうなるのか」と言うばかりで「どのような外交・安保政策を日本がとるべきか」の具体的な議論を十分に行っているとは言いがたい。

辺野古基地問題で、トランプ氏の意向もくみいれた提案をしていくべきだ

 筆者は、これまで沖縄の辺野古基地建設問題について米政府や米議会に働きかけを行ってきた。この問題についても、日本の真の利益を見据えながら、トランプ氏の意向も頭に入れた上での提案をしていく必要がある。事態が流動的な中、政権の方針が固まる前にウィンウィンの提案ができれば、物事が動く可能性も出てくる。

 例えば、

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