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フジテレビ・能勢伸之氏に聞くミサイル防衛

中国・北朝鮮のミサイル開発の実態から進化する日本のMDまで

谷田邦一 ジャーナリスト、シンクタンク研究員

 米国防長官ジェームズ・マティス氏が来日し、トランプ政権が発足して初めての日米防衛相会談を終えた。トランプ氏が大統領選で露骨に求めていた在日米軍の駐留経費の負担増を強く迫るのではないかと危惧されていたが、マティス氏は「日米の分担のあり方は他の国が見習うべきお手本」と日本を持ち上げ、そうした考えがないことを明らかにした。

 しかし安心するのはまだ早い。2月10日に予定される日米首脳会談などで、トランプ大統領自ら手のひらを返して意表をつくような要求を突きつけないとは限らない。

 そうなった場合、安倍首相はどう対応すればいいのか。

日本が米側に求めるべき「おまけ」

 「トランプさんは商売や駆け引きが上手。なじみの八百屋がミカン値上げするというんやったら、1個余分につけてぇな。キュウリでもええよ。関西の駆け引きが上手なおばちゃんならそう言うように、値上げしたいんやったらサービスしてほしいと言ってみてはどうか」

 フジテレビのインターネット番組「ホウドウキョク 能勢伸之の週刊安全保障」(2016年11月18日放送)で京都出身のアシスタント、小山ひかるさんがこう提案した。ゲストの軍事評論家、岡部いさく氏と拓殖大学の川上高司教授はたちどころに、日本が米側に求めるべき「おまけ」の実例をずらりと並べてみせた。米軍が宇宙から弾道ミサイル発射を感知するため使用している衛星情報を応用した敵航空機追尾情報の日本側への提供、ハワイの米太平洋軍司令部への自衛隊幹部の要員配置(エンベッド化)、かつて尖閣諸島で行っていた米軍機による射撃訓練の再開……。交渉を通じて米側がのめば、日本の防衛力アップにつながりそうな選択肢ばかりである。

 「週刊安全保障」は、安全保障問題の仕組みや考え方について、なじみの薄い人たちにとってもわかりやすく解説してくれる番組として人気を集めている。キャスターをつとめる能勢伸之氏は報道局政治部兼任の解説委員。長く世界の軍事問題の解説を受け持ち、北朝鮮や中国が急ピッチで開発を進める長距離ミサイルの研究家としても知られる。

金正恩朝鮮労働党委員長の視察の下に行われた朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の弾道ミサイル発射訓練。日時は不明。朝鮮中央通信が9月6日報じた=朝鮮通信朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の弾道ミサイル発射訓練。日時は不明。朝鮮中央通信が2016年9月6日に報じた=朝鮮通信
 トランプ大統領は、米国の軍事施策の強化の1つとして、ホワイトハウスのホームページに早々と「イランや北朝鮮のような国家からのミサイル攻撃に対するミサイル防衛(MD)を開発する」と掲げた。

 日本の安全保障にとって、両国のミサイル攻撃力は最も差し迫った脅威だといっても過言ではない。

 北朝鮮は昨年(2016年)、2回の核実験を重ね、20発以上の弾道ミサイルの発射実験を繰り返した。将来の核弾頭搭載を想定したミサイルはすでに日本全体を射程に収めているとされる。中国も、日本を射程に収める巡航ミサイルを積める爆撃機を東シナ海など日本周辺に頻繁に飛行させて、日本に軍事的なメッセージを送り続けている

 いま何が脅威なのか。日本はどう対処すればいいのか。能勢氏に聞いた。

――日本周辺国のミサイル開発は日本にとってどのくらい深刻ですか?

能勢 北朝鮮の弾道ミサイルは種類そのものが変わってきました。スカッドやノドンをもとにテポドン系列が出て射程を伸ばしました。それとは別にムスダンも登場。さらに新型の大陸弾道ミサイルのKN-08、KN-14が出てきて話題となっています

撃ち方、性能の発達

――撃ち方そのものも変わってきましたね。

能勢伸之氏 撮影・筆者能勢伸之氏 撮影・筆者
能勢 北朝鮮の弾道ミサイルを使う戦術が発達しつつあります。連射の能力が高まり、軌道を変えて撃つ能力ももつようになりました。昨年は、「ロフテッド軌道」という、上空高く打ち上げて高速で落下させる撃ち方にも成功しました。これは迎撃されないための撃ち方なのですが、日本の防衛当局はこうした変化に対し真剣に考えなくてはならなくなりました。

――ほかにも北朝鮮のミサイル脅威はありますか?

能勢 かなり性能のいい対艦巡航ミサイルが出てきました。ミサイル艇から発射されます。ロシア製のKh-35(射程約130キロ、速度マッハ0.8)に似ていて、これが警戒監視活動中の米国のイージス艦を自衛隊の護衛艦が守らないといけないと言われている原因かも知れません。弾道ミサイル防衛用イージス艦のやや古いタイプ(イージスBMD3.6のレベル)ですと、基本的に弾道ミサイル防衛モードに入っていると自分の艦も守れません。その場合は日本の艦艇が守らないと日本の防衛そのものにも穴が空いてしまいかねません。

――中国のミサイル脅威はどうですか?

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