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「小池的」イメージ政治にひそむわな

理性的判断を阻害するテレビに特化した情報発信に有権者・メディアはどう対応するか

西田亮介 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

異例尽くしの衆院解散

記者会見で「希望の党」の設立を発表する小池百合子・東京都知事=25日、都庁記者会見で「希望の党」の設立を発表する小池百合子・東京都知事=25日、都庁

 9月28日の臨時国会冒頭に衆議院の解散が宣言され、10月22日投開票の第48回衆議院議員総選挙が行われることになった。演説や議論が一切なしの解散は前例がないわけではないものの、かなり稀有なケースだが、メディアと政治、また情報と政治という観点で見ても、なにかと異例尽くしの様相である。

 なかでも目立つのは、2017年の東京都議選で都民ファーストの会を率いて大躍進させ、国政進出への意欲を見せていた小池百合子・東京都知事の「想定外」とも言える動きである。

  解散の3日前の25日、突如、記者会見を開いた小池は、「希望の党」を結成して自らが代表につくと表明した。民進党離脱組や無所属議員、日本のこころなどからも参加の声があがり、チャーター(創設)メンバーとして自民党以上に保守的な議員たちが顔をそろえた。

 小池の動きは野党第1党の民進党にも波及する。9月1日投開票の代表選で選出されたばかりの前原誠司代表は、スキャンダルや離党者が相次いで支持が上向かない党勢を鑑みた結果か、これまた唐突に希望の党への合流を表明。民進党は事実上解党した。小池が選別の意思を示すと、前原周辺への不信感から10月2日に枝野幸男・元官房長官が立憲民主党の設立を記者会見で宣言。前原が捨てた野党共闘が復活した。

「民意」をめぐり様々な駆け引き

 このように短期間に目まぐるしく動く政治の背後で、「民意」をめぐる政治家や政党の駆け引きもまた、活発に行われてきたように思われる。

 解散に打って出た安倍晋三首相は、森友・加計学園問題や閣僚の失言などで急落した内閣支持率の動向、民進党のスキャンダルに対する世間の空気、北朝鮮の挑発的行為に対する国民の不安などに、周到に目配りしたはずだ。首相の「伝家の宝刀」とされる解散は、その結果である。

 民進党の離党者たちは、何をしても一向に改善しない民進党支持率に嫌気がさしていたのだろう。選挙を勝ち残るための、「渡りに船」と言わんばかりの離党、希望の党への合流だった。

 そして、この間、民意との駆け引きを最も巧みにおこなったのは小池であった。

テレビ政治を熟知する小池都知事

 テレビ東京の人気経済番組「ワールドビジネスサテライト」の初代キャスターから日本新党の国会議員になった小池は、テレビ政治を熟知し、テレビを巧みに使って政界を生き抜いてきた。

 日本新党から新進党、自由党、保守党を経て2002年に自民党に移籍。小泉純一郎内閣では環境相をつとめ、「クールビズ」の仕掛け人に。2005年の郵政選挙では小泉自民党の刺客として、比例近畿ブロックから東京10区にくら替えして当選。第1次安倍内閣では安全保障担当の首相補佐官、防衛大臣をつとめた。クールビズにせよ、刺客にせよ、テレビメディアをうまく使って、自らのイメージ、存在感を高めた。

 今回の解散政局でも、メディアへの訴求力は抜群だ。「ワイズスペンディング」「脱しがらみ」といった短く、印象的なキャッチフレーズ。安倍首相の解散表明会見がある25日に新党代表就任の会見をぶつけるタイミング。テレビカメラを引きつける振る舞い。その本能的とも見えるメディア対応能力は、古今の政治家の中でも突出していると言わざるを得ない。

 いずれ画面占有率の分析などを通じ、定量的に検討されるべきだが、9月時点において小池と希望の党のテレビの報道時間は相当量にのぼるはずだ。テレビを通じ、有権者、生活者に存在を印象づける点で、彼らのもくろみは相当程度うまくいったと考えられる。

 しかし、有権者の立場に立てば、こうしたイメージ重視の「小池的な手法」は幾つもの問題を抱えている。

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