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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(2)

第1章 日本語からのアプローチ 1.発音がカタカナ表記できる

市川速水 朝日新聞編集委員

 

「サランヘ」と甘いマスクで呼びかけファンを増やしたチャン・グンソク

韓国語に「現地で現地の人から習え」はあてはまりません!

 私の職場に近い銀座や新橋では、5,6年前から外国人が目立つようになりました。爆買いやインバンウドの影響です。ある朝など、駅から会社まで歩く約20分間、中国語や英語、韓国語、東南アジアの言葉ががんがん聞こえるのに日本語が1度も聞こえないことすらあって驚きました。

 駅でも街頭でも、英語や中国語、韓国語の案内が増えています。私のマンションでも、ゴミの捨て方など外国語での注意書きが貼られました。新橋でも二重にも三重にも表記されていて、ごちゃごちゃしていますね。でも時折立ち止まって、これをじっくり見るのも楽しいのです。変ですか?

英語、中国語とともに韓国語の表記が増える新橋駅
 例えばこの「都営浅草線」。韓国語の表記は「トエイ アサクサ」までは読みをそのまま1文字ずつ書いているのですが、最後だけ「線」の漢字語です。だから、計8文字になります。中国語だと、糸ヘンは同じでもつくりが違って「銭」「浅」みたいですね。

 「京急線直通」の韓国語は、日本語風に分解すれば「ケイ キュー線 直通」となり、なぜか「京」と「急」が離れているのが、クスっと笑えてしまいます。え、変ですか?

 ハングルの読み方については、数回後に詳しくやりましょう。また、「街の看板特集」もいずれ番外編でやってみるつもりです。

 さて、「にわか韓国語講座」、略して「にわかん」の2回目は、カタカナ表記できるという大きな特徴についてです。

 先週の繰り返しになりますが、「韓国語の基礎とは」から始めるのはこの本の本意ではありません。日本語を使いこなしているのだから、使える日本語の知識・文法は全部使ってしまおうというのが趣旨です。ですからお勧めしたいのは、韓国語ができる日本人から習った方がいいのではないかということです。

 逆に日本語が上手な韓国人から習った場合、発音はとてもきれいだし、基礎からちゃんと教えてくれますが、「日本語からのアプローチ」がしにくくなるでしょう。例えば韓国語・朝鮮語が得意な在日コリアンの方がいいでしょうね。「外国語は現地で現地の人から習え」は語学の鉄則ともいわれていますが、韓国語だけは違うぞ、というのが私の考えです。

 あと、書店で様々な韓日・日韓辞書が出ていますが、なるべく見出し語の後にすぐ漢字語が出ている方が後々、勉強しやすくなります。

 例えばあの韓国春雨「チャプチェ」が「잡채(雑菜)名詞 韓国風春雨」などとあると分かりやすいですね。ちなみに私は○○堂の韓日・日韓辞典の表記方法に一目惚れして持ち歩いています。

カタカナをそのまま読めばそれなりに通じます!

 さて、日本語からのアプローチがなぜ有効なのかという理由です。

 名詞や形容詞、人名でも地名でも、口の形を変に「よそ行き外国語風」に緊張させなくても、カタカナを言うつもりで通じます。書かれたカタカナをそのまま読めば、それなりに通じるのです。「この人外国人だなあ」「発音うまくないな」と思われても気にしないことにしましょう。

 中国語は四声があり、独特な口や舌の形が必要です。英語も一つ一つ単語とアクセント、「the」「RとLの違い」など日本語にない発音を覚えるのが大変です。

 韓国語には、それほどの違いはありません。母音も子音も、日本語の「50音」よりは多いのですが、すべてカタカナで表記することが可能です。それが通じます。

 より正確には「タ」、破裂させるような「ッタ」、喉から絞り出すような「タ」と違ったりするのですが、表記、発音とも「タ」で許容範囲です(このくだりはプロの先生が見たらムっとするでしょう。でも韓国で実験済みです)

 早速マーケット(市場、シジャン、シジャング、시장)に行って「まけてください」「安くしてください」と言う意味で「チョグム サゲ ヘジュセヨ(조금 싸게 해주세요)」とカタカナで言ってみてください。ほら通じるでしょう? ただし、「イエー(예)」(「はい」「イエス」の意味)「OK」と言われた時はラッキーですが、「ダメだよ」「いくらまでなら下げるよ」と言われてしまうかもしれません。その時の返答は別途、勉強しましょう。

ちょっと寄り道① 「鼻血」の恐怖
 外国語の勉強で、最も気になるのは日本語にない発音ですよね。上達しょうと思えばきりがありません。日本語と同じ発音で足りる外国語は一つもないというのが常識でしょう。韓国語がカタカナをそのまま読んでも通じるという「通じる」は、「正しい」こととは違いますので、その点は誤解のないように。
 私の場合、発音の勉強中に「コーヒーと鼻血は発音が似ているから気をつけるように」と何度か言われました。どちらもカタカナでは「コピ」だからです。「やくそくごと」で言っても、どちらも「ツコツピ」です。「コ」の口の開け方が、コーヒーの方がややあいまいという違い程度で、発音し分けるのは難しいのです。
 実際言ってみるまで、間違ったらどうしようとびくびくしていたのですが、すぐ気付きました。カフェで「コピ」の発音が違っていたって、何も鼻血が出てくるわけでもない。逆に病院でもそうです。だいたいは「コーヒーください」とか「コーヒー一杯」とか言うし、医者の前で「コーヒーが出て止まりません」などと言うわけはありません。言葉には、その語を発する「状況」があるのです。試しにカタカナで「コピ」と言ってみてください。どちらでも通じます(韓国で実践済み)。でも、外国語で難しいのは、その状況が「対話」に展開していくことです。「はい、コーヒー一杯ですね。テイクアウトですか? 砂糖とミルクは? 4000ウォンです」と矢継ぎ早に会話が続きます。それに答えることができないと美味しいコーヒーは飲めませんね。なお、コーヒーは簡単でも、カフェラテとかモカ、韓国茶とか、バリエーションを求めようとすれば多少の慣れが必要です。

単語の発音をしてみましょう

 では、次の単語を発音してみましょう。どれもよく使う言葉です。発音をなるべく正しくするために、先週「やくそくごと」の中で説明した半角文字を使っていますが、新聞の表記や会話の本では、そのまま全角文字で表すことが多いです。それでも十分通じます。

・カムサ(感謝、カムサ=감사) ・チャプチ(雑誌、チャプ゚チ=잡지)
・ミンジュジュイ(民主主義、ミヌジュジュイ=민주주의)
・キム・デジュン(金大中、キム・デジュング=김대중) ・プサン(釜山、プサヌ=부산)
・ウリ(私たち=우리) ・ノム(とても、あまりに=너무)
・サラン(愛、サラング=사랑)

 ちなみに、最初の5つは漢字をそのまま読む「漢字語」、後の3つは漢字がない、朝鮮半島古来の表現である「固有語」です。

ちょっと寄り道② 愛してる!
 日本人に最も知られている韓国語の一つは「サラン=愛」ですね。韓国に留学中、新聞で何度か「韓国人が一番好きな韓国語は?」という世論調査の報道があり、ぶっちぎりで「サラン」が1位でした。韓国人にも理由を聞きましたが、よく分かりません。「韓国人は周りに愛を振りまくのが好きだから」「サランという響きが良い」などなど。愛という漢字も「エ」と発音して、愛の意味もあるのですが、断然固有語としての「サラン」が好まれます。
 いくつかの本で、「人」を表す固有語も「サラン」と表記されることもありますが、発音が違います。このコーナーの「やくそくごと」でいえば、愛は「サラング」、人は「サラム」です。喉の奥まで「ン」を持っていくか、「ム」と口を閉じるかの違いです。
 一般的なカタカナ表記でいうと、日本人のことは「イルボン サラム」、「愛する人」は「サランハヌン サラム」となります。
 「サランヘ~」を一躍有名にしたのは歌手のチャン・グンソクでしょう。ライブでは連呼してファンを喜ばせます。他の歌手もよく使いますが、日本語の「愛してる」とは違うニュアンスのような気がします。「愛」よりも「好き」に近く、さらに大きく包み込むような親近感をあらわす、翻訳しにくい表現だと思います。
 なお、サランラップのサランは「愛」なのか、愛が包むのか、美しい商品名だと思って調べてみたら、全く関係ないようでした。発明者のアメリカ人2人の妻の名前からとったそうです。

この講座の長期計画をお伝えします!

 さて、このへんで「このやばいコーナーはどんな風に進んでいくのか」「長期計画はあるのか、行き当たりばったりじゃないのか」などの疑問・疑念がわいてきた方がいるのではないでしょうか。実は計画はあるのです。種明かしをしておきます。

 ただ、あまり教科書的になってしまわないように、文中には章とか項目の番号を付けずに進めていこうと思います。

 以下のような構成を予定しています。複数の項目を一度にやってしまうこともあります。番外編を挟むこともあるでしょう。

【目次】
◇はじめに~この本の意図=先週の分です

◇第1章 日本語からのアプローチが可能な理由
1.発音がカタカナ表記できる=今週の分です
2.漢字の意味が同じ。発音はひとつ=来週の分です
3.発想や言い回しが同じ
4.考え込む、あいまい表現が同じ

◇第2章 ハングルは怖くない
1.暗号のようなマルや棒は「舌」や「口」の形
2.1文字の基本は子音+母音=漢字1文字分
3.「ン」の書き方・読み方は3種類
4.日本語をハングルで書いてみる

◇第3章 漢字読みの「密かな法則」で楽々マスター
1.音読み1音はハングルも1文字が多い
2.日本語の音読みは韓国語に近い
3.語尾が変換されるナゾの法則
4.日本語の「ん」が「ング」にならない法則

◇第4章 必要な「固有語」と「音変化」
1.固有語は「訓読み」のつもりで
2.固有数字「ハナ、トゥル…」
3.音変化は大事なものから
4.中級、上級に進むために

◇第5章 文章を作る、話す、書く
1.助詞と語尾は日本語に対応
2.形容詞+名詞で具体的に描写
3.副詞「~ヒ」+動詞で生々しく
4.友達言葉や伝聞で日本語調に

◇第6章 「日本語力」で上達する
1.しりとり・連想ゲームで語彙を増やそう
2.外来語は日本より多用?
3.日本語との微妙な違いを楽しむ
4.「差し上げる」「召し上がる」丁寧語や謙譲語

◇第7章 困った時の切り抜け方
1.硬い言葉を恐れずに漢字語に言い換え
2.無敵の丁寧語「~スムニダ」「~イムニダ」
3.「え?」「う~んと」聞き返す言葉を覚える
4.伝聞・あいまい・予想の言い方

◇最終章 「始まりの終わり」にあたって

 韓国では秋の最大の行事、秋夕(チュソク)が近づいています。旧暦のお盆にあたり、家族・親族が一同に会して先祖の霊をまつり、一緒に食事をしながら過ごす期間です。中国ほどではありませんが、直前、直後に国民が大移動します。

 今年は9月24日が秋夕の日にあたり、韓国の観光案内によれば前日の23日から26日まで4日間が公休日。会社も商店も大半が休業します。もっとも最近は、ソウルの明洞(ミョンドン)など観光地やショッピング街は、営業するところも多くなりましたので、食いはぐれる心配はないと思いますが。交通機関の混み具合や値段がいつもと違うかもしれません。

 韓国旅行の予定がある方、ジョシメソ・カシプシオ(気をつけていってらっしゃい)!

 では、また来週!

*次回は9月29日(土)公開予定です。