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沖縄で勝ち、品川で負けた。野党共闘の課題は?

与野党一騎打ちになった二つの地方選。その明暗から参院選への課題が見える

山下剛 朝日新聞記者

玉城デニー氏(中央)の沖縄県知事選擁立に向け会談する立憲民主党の枝野幸男代表(右)と自由党の小沢一郎代表=2018年8月28日、東京・永田町

もうひとつの与野党激突、品川区長選  

 沖縄県知事選(9月30日投開票)では、翁長雄志前知事の後継として共産党、社民党や労働組合、企業などでつくる「オール沖縄」の支援を受けた玉城デニー氏が、安倍政権の全面支援を受けた佐喜真淳氏を破った。注目を集めたこの選挙と同じ日に、与野党が激突した地方選挙がもう一つあった。東京都品川区長選だ。

 品川区長選では、逆に、自民党と公明党の推薦する現職が、立憲民主党や共産党などの推す新顔を破った。沖縄と品川の違いはどこにあるのか。そこから、来年夏の参院選の行方を見通せるのではないか――そんな思いから、私は品川区長選を密着取材した。

 この選挙は、4期目を目指す現職の浜野健氏(71)に、新顔で元東京都議の佐藤裕彦氏(60)と元品川区議の西本貴子氏(57)の2人が挑んだ。いずれも無所属で、浜野氏を自民、公明が推薦し、佐藤氏を立憲、共産、自由、都民ファーストが推薦していて、与野党が対決する事実上の一騎打ちの構図だった。

 注目されたのは、新顔の佐藤氏の経歴だ。

安倍首相の元「身内」の寝返り?

 佐藤氏は1985年の東京都議選で初当選して連続6期務めたが、当時は自民党に所属していた。都議会自民党の政調会長、幹事長、自民党東京都連の副会長、幹事長代理などの要職も歴任している。

 それだけではない。

「若い頃は(自民党の)福田派に出入りしていた。安倍(晋太郎)事務所にも書生のような形でいたかも」

 安倍晋三事務所の関係者はこう打ち明ける。故・安倍晋太郎氏の時代のかなり古い話とはいえ、自民党から、しかも安倍首相の「身内」からいわば寝返った格好だ。

 自民の「身内」から対立候補が出て、しかも立憲、共産が支援に回った。現職の浜野氏の陣営の警戒感は一気に高まった。

 9月3日、JR大井町駅の近くであった浜野氏の総決起大会。会場には、衆院選東京3区で議席を争ってきた「長年のライバル」である石原宏高氏(自民)と松原仁氏(無所属)も顔を揃えた。地元選出の東京都議、伊藤興一氏(公明)はこう訴えた。

「もしものことがあったら品川区は共産区政になる。これは大変なことになる。品川区を共産区政にしてはならない」

 危機感の理由は、立憲と共産の選挙協力だけではない。6月の東京都中野区長選では、自民と公明の支部などの推薦を受けて5期目を目指していた現職が、立憲、国民などが推薦した新顔に敗れているのだ。

保守層を取り込め

 一方の佐藤氏。9月27日にJR大井町駅前であった街頭演説では、立憲民主の長妻昭代表代行と共産党の小池晃書記局長が選挙カーに上った。長妻氏は「一騎打ちの構図に持っていかなければ現職の壁は厚い。政党がそれぞれ候補者を立てていたらどうなるんだ」と訴え、小池氏は「共産区政になるって、失礼じゃないですか。佐藤さんはもともと自民党ですよ」と力説した。

街頭演説に集まった人と握手をする佐藤裕彦氏(中央)=9月27日、JR大井町駅前

 今回、立憲民主や共産が佐藤氏支援に回るまでには「相当苦労があった」と陣営関係者は振り返る。それでも野党がまとまったのは「もともと自民党」の佐藤氏を担いででも保守層を取り込んでいかないと、「1強」といわれる安倍自民に勝てないという事情がある。

 沖縄県知事選で玉城デニー氏が強く打ち出したのは「翁長知事の遺志を引き継ぐ」ことだった。翁長氏はかつて自民党県連幹事長をつとめ、2014年に沖縄県知事選で初当選した際には自民党など保守層の一部からも支持を獲得していた。玉城氏は、この支持基盤を引き継ぐことができたからこそ、当選できたといえる。

 今回、立憲民主や共産が「もともと自民党」の佐藤氏に白羽の矢を立てたのも、保守層の受け皿になることを期待したからだ。野党が保守層までも取り込む形で与野党一騎打ちの構図に持ち込み、4年前より投票率を引き上げた品川区長選は、今後の野党共闘のロールモデルになる可能性がある。

候補者一本化は最低限の条件

 2012年に自民、公明両党が政権を奪還し、安倍晋三首相が首相に返り咲いてからのこの6年間、野党は分裂と弱体化を繰り返してきた。

 朝日新聞社が9月8、9日に実施した全国世論調査によると、自民の支持率は40%、公明は2%。一方、立憲民主は5%、共産は3%。与党の支持率は合わせて4割前後を維持しているのに、野党は合計1割前後で、支持基盤は弱まる一方だ。

 こうした状況で与党に対向するには、まずは野党がまとまるしかない。

 たとえ「野合」と批判されようと、大同小異でまとまらなければ、改選数1の1人区では勝負にならない。とりわけ、参院選では2人区、3人区などの複数区では与野党が議席を分け合うことが多いため、1人区の勝敗が全体の勝負を決めることになる。

 実際に、前々回の2013年参院選では野党の候補者が乱立して1人区で2勝29敗と完敗したが、前回2016年は野党統一候補を擁立して11勝21敗まで盛り返している。野党の候補者一本化は与党に挑むための最低限の条件といえるだろう。

品川区長選の投票率は沖縄県知事選の半分だった

 もちろん、野党が候補者を一本化すれば与党に勝てるわけではない。与党と野党の間には圧倒的な組織力に差があるからだ。それを乗り越えて与党に勝つためには、投票率を上げるしかない。

 品川区長選挙の開票結果は以下の通りだった。

浜野健  49965票(得票率48%)
佐藤裕彦 37607票(36%)
西本貴子 16240票(16%)
投票総数 105563人(投票率32.71%)

 沖縄にあって、品川になかったものは何か。それは投票率だ。品川区長選は32.71%、沖縄県知事選は63.24%。実に倍の開きがあるのだ。

 それでも品川区長選は4年前の23%からは上昇した。野党が結束して「もともと自民」の候補者を擁立し、事実上の与野党一騎打ちの構図に持ち込んだ一定の効果はあったといえよう。

 それでも、まだ足りない。どうすれば投票率があがるのか。

「品川の空」に無党派層は関心を示さなかった

 投票率をあげるには、無党派層に投票してもらうしかない。

 野党が分裂して弱体化した今、自民、公明の与党に匹敵する規模のまとまりは無党派層だけだ。野党候補が与党候補と互角に戦うには、無党派層の支持をとりつけ、投票所に足に運んでもらうことが前提になる。

 そのためには、無党派層を惹き付けるような争点を設定できるか、がポイントだ。沖縄県知事選で勝利した玉城氏は米軍基地問題を柱として「沖縄のアイデンティティ」を高く掲げ、無党派層の7割から支持を得た。

 品川区長選で敗れた佐藤氏が全面に打ち出したのは「品川の空を守る」という公約だった。

 政府は2020年の東京五輪までに羽田空港の発着枠を増やすため、品川区の上空を通って着陸する新ルートを計画している。佐藤氏はこの新ルートについて、騒音被害や落下物の危険性をあげて「撤回」を主張した。住民の不安を逆手に取ったといえよう。

 しかし、結果としてみれば、新飛行ルートを中心に据えた佐藤氏の訴えは、広がりに欠けていたと言わざるを得ない。戦後からずっと基地問題に直面している沖縄と違って、羽田空港の新飛行ルートによる騒音などの被害は、いまのところ表だって出ていない。新ルートといわれてもピンとこない、そもそもよく知らない、という住民(無党派層)が少なくなかったのではないか。

相手と自分の違いを探せ

 佐藤氏が「品川の空を守る」と新ルート撤回を打ち出したことを受けて、浜野氏はパンフレットで「羽田の空路変更に対しては何よりも区民安全・安心を優先」と書き込んだ。佐藤氏の主張との違いを打ち消す「抱きつき作戦」だった。

 佐藤氏は何を打ち出すべきだったのか。

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