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消費税10%以後の社会保障の姿を議論せよ

いま政治が示すべきは「新たな社会保障の哲学」だ

小黒一正 法政大学教授

 安倍首相は、来年(2019年)10月に消費税税率を8%から10%に引き上げる予定だが、それと同時に、飲食料品や新聞などに軽減税率を導入する方針である。

 政府や財務省はこれまで、高齢化で膨張する社会保障の安定財源として消費税を念頭に置き、社会保障・税の一体改革を進めてきたが、もはや消費税のみでは社会保障費の伸びを賄うことはできない可能性が高い。理由は次のとおりである。

消費税11%分の社会保障費増

 まず、内閣府等が試算した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」(2018年5月21日公表)によると、現実的な経済成長率を想定するベースライン・ケースで、2018年度のいま対GDP(国内総生産)比で21.5%の社会保障給付費は2040年度に約24%に膨張する見通しだ。約20年間で2.5%ポイントも増加する。これは財務省が2018年4月に公表した「財政の長期推計(改訂版)」とも整合的な試算である。

財務省庁舎=2018年3月12日、東京・霞が関

 というのは、財務省の推計では、医療・介護・年金を中心とする年齢関係支出は対GDP比で2020年度に約22%となり、2060年度には約27%に膨張すると予測しているからである。医療・介護・年金等の年齢関係支出(対GDP)は、約40年間で5%ポイントも増加する。40年間のちょうど半分は20年間で、2020年度から2040年度の20年間では年齢関係支出(対GDP)が2.5%ポイントくらい増加する。

 では、40年間での対GDP比で5%ポイントの増加とは何を意味するのか。いまのGDPは概ね550兆円であるから、その感覚でいうと、それは約28兆円(=5%×550兆円)の増加に相当する。いまは消費税率1%の引き上げで約2.5兆円の税収増になるため、社会保障費増を抑制せず、その膨張コストを消費税で賄うと、追加で約11%の税率引き上げが必要になることを意味する。

 また、いま財政赤字が約20兆円もあり、それを解消するためには消費税率換算で約8%の増税が必要であるから、2019年10月に消費税率が10%になっても、財政の安定化には、消費税率を最終的に約30%にまで引き上げる必要性がある。ただ、これは軽減税率を導入しないケースでの簡易試算で、もし2019年10月の増税で軽減税率を導入すると約1兆円の税収が失われるため、そのようなケースでは最終的な消費税率は35%を超えてしまい、一定の社会保障改革を行っても、もはや消費税のみで社会保障費の伸びを賄うのは困難な可能性が高い。

政権の責任

 このような状況の中、先般、第4次安倍内閣の改造が実行された。2018年10月2日に開催された初閣議後の談話において、安倍首相は「国難とも呼ぶべき少子高齢化に真正面から立ち向かい、一億総活躍の新たな国づくりを推し進め」ることや、「未来を担う子ども達、子育て世代に大胆に投資するとともに、高齢者の皆様がいくつになっても活躍できる社会を実現することで、全ての世代が安心できる社会保障制度へと改革を行って」いくと宣言した。

第4次安倍改造内閣が発足し、記者会見する安倍晋三首相=2018年10月2日、首相官邸

 同日に閣議決定した基本方針では、「1.復興・国土強靱化の推進」「2.頑張った人が報われる経済成長」「3.全ての世代が安心できる社会保障改革」「4.美しく伝統ある故郷(ふるさと)を守り、次世代へ引き渡す」「5.新しい時代のアジア太平洋の平和と繁栄の礎を築く」という柱を掲げ、全世代型社会保障の実現を目指すことを明らかにした。

 高齢世代に偏った社会保障制度を改め、現役世代を含む全世代型の社会保障制度に転換するという方向性は一つの政治的な選択であるが、持続可能な社会保障制度を構築するための安定財源はどうするのか。社会保障費の伸びをどのくらい抑制し、最終的な増税幅をどうするのか。

 「国難とも呼ぶべき少子高齢化に真正面から立ち向か」うというのであれば、消費税10%以後を見据えた「中長期的な社会保障の姿」を国民に示すのが政権を担う政治の責任であるはずだ。

社会保障の「綻び」明らかに

 では、いまの政治に何が不足しているのか。

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